077.対面
「そんな不審者を見るような顔をしないでくれる? 経済だけど、忘れた?」
「ツネちゃん、オバケ怖いから、もう本家には来ないんじゃなかったのか?」
やや間があって、ヘドロが見下した声で言った。
いや、寧ろお前がオバケだ。
「今年はそのオバケ達を何とかする為に来たんだ」
ツネ兄ちゃんは、オバケにちゃんと返事をしている。
ひょっとして、これ、ニートのゆうちゃんか?
ツネ兄ちゃんだけに相手させるのは申し訳ないから、俺はニートに近付きながら、マスクを外した。
「俺の事はわかるかな?」
ヘドロは返事をしなかった。
俺は吐き気を堪えて言葉を吐き捨てた。
「従弟はわかるのに、自分の弟がわかんねーとか、何なんだよ、アンタ」
「えっ?マジ?ホントに誰かわかんないの?」
「じゃあ、私ら、もっとわかんないよね?」
真穂と藍ちゃんが、呆れ返って半笑いになる。
「あ、でも、私はホントに初めましてだから、ちゃんとご挨拶しとこっと。私、ゆうちゃん達の従妹、分家の長女の山端藍。大学一年生です」
藍ちゃんが律儀に自己紹介して、ぺこりとお辞儀する。
真穂もそれに倣った。
「ずっと同じ家に住んでるのに『初めまして』って言うのは、絶対、おかしいと思うんだけど……一応、ね。ゆうちゃん、私は妹の真穂、高三です。……声だけは、知ってるよね?」
「い、いや、つーか、今年は離れ小島に行かなかったのかよ?」
「俺らは大掃除するから残った。今年はジジイとオヤジだけで行ってる」
不愉快極まりない。
お前も大掃除に参加しろよ。ゴミニート。
「え? 同居の弟妹とホントに初対面なのか? ゆうちゃん、一体、何年ひきこもってたの? ケンちゃんって今、大学四年生だぞ?」
ツネ兄ちゃんが呆れつつ、ニートの一番痛い所を的確に突いてくれた。ザマァ。