076.感覚
農協の封筒だ。
中をチラ見して、心臓が止まりそうになった。
札束が入ってる。
ツネ兄ちゃんに言われて、中身をブルーシートの上に出した。
百万の帯封二本と十七万円と五千円と小銭が六百十一円。
払戻票の控えも入っていた。
払戻は、俺が生まれる三年前の日付けだ。
「定期が満期になったのを現金で持って帰って放置……か。豪快だなぁ」
ツネ兄ちゃんが呆れて笑う。
これだけあれば、真穂を公立に進学させるくらい、楽勝なのに。
ジジイの金銭感覚がマジでわからん。
封筒に戻す。
後で祖母ちゃんにどうするか聞きに行く。
祖母ちゃんを分家で引き取っても、ジジイに連れ戻されるかもしれない。
老人ホーム代の足しにでも……
気を取り直して、選別作業を続けていると、クロエさんが出て来た。
後ろにヘドロの塊がついてくる。
ヘドロの塊は周囲を見回し、俺達の所で視線を止めた。
顔も何もわからない。雑妖が何百匹もしがみついていて、本体が見えない。
俺は思わず、シートの上に立ち上がった。
クロエさん、後ろーッ……!
ツネ兄ちゃんが、マスクを外して、ヘドロに笑顔を向けた。