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汚屋敷の兄妹  作者: 髙津 央
第四章 賢治の十二月二十六日~十二月二十八日

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074.親父

 俺達は、二手に分かれて部屋の物出しを始めた。

 もう三日目だからか、みんな要領よく運び出す。


 今朝はノリ兄ちゃんと双羽(ふたば)さんが庭で待機。三枝(さえぐさ)さんが中の作業を手伝ってくれた。

 居間の隣も、居間と同じ十畳の和室だった。真穂と藍ちゃんに任せる。

 何年も窓を開けていないせいで、埃や(かび)の胞子と湿気で、空気そのものが物理的に重い。その中に雑妖が満員御礼。

 物を出して窓を開けただけで、かなりの雑妖が消えた。


 オヤジルームは、雑妖で中の様子が物理的に見えない。

 三枝さんが呪文を唱えて剣を振る。雑妖が一掃された。

 雑妖が居なくなり、視界が拓けた。


 居間の隣同様、いつから換気していないのか、ヤニと埃、黴の胞子と湿気で、空気そのものが濃密な毒だ。

 レベル低い系の週刊誌と、使用済みティッシュ、脱ぎ散らかした服と煙草の吸殻、スナック菓子や菓子パンの袋、ペットボトルが山盛りになっている。

 辛うじて布団だけが平ら。年単位で干していないから、汗と皮脂が()えた臭いを放っている。

 壁際は全て箪笥(たんす)で、奥の(ふすま)の前にも箪笥がある。

 それで何で、足の踏み場もないどころか、服が山になっているのか。

 布団周辺は膝の高さ、部屋の奥は俺の胸くらいの高さに盛り上がっている。


 俺は何も考えずに掛け布団をめくった。

 「うわぁあぁあぁッ!」

 ツネ兄ちゃんが悲鳴を上げる。三枝さんも息を呑む。

 丸々太った五センチ級のGが、十匹近く一斉に走った。四方八方に散り、ゴミや雑誌、脱ぎ散らかした服の山に逃げ込む。

 その動きにつられたのか、驚いたのか、部屋中から、カサカサ、カサカサ、音が聞こえた。

 心底、土足でよかった、と思った。


 Gが居なくなった敷布団は、ホントにもう、いつの昔から干していないのか、人の形にへこんで黒ずんでいる。

 皮脂と黴だろう。

 黒い粒はGの糞。

 マスクをしているのに、ヤニと饐えた臭いが、鼻の奥すら通り越して、喉の奥にまでへばりつく。


 枕には抜け毛とフケ、寝煙草の灰が散り、焦げ跡がついている。

 試しにこっちも、ちょっと蹴ってみた。

 またまた、Gの群が周辺のゴミ山に逃げる。

 ずれた枕の下には、小さな蛆の集団がいた。頭、枕、布団から適当な湿気とフケと皮脂、食べこぼしなんかも供給されるから、居心地がいいんだろう。


 よくこんな所で寝られるもんだ。


 人間の屑ってフレーズはよく聞くけど、ゴミ屋敷を作る奴は何て呼べばいいんだろう。

 ウチは別に貧乏じゃない。

 (むし)ろ、貯金も山も土地も持ってて、どっちかっつーと、金はある方なんじゃないか?

 なのに、なんでこんなゴミ溜めに住んでるんだろう?


 こんなのと血が繋がってると思いたくない。


 色んな意味で女子供に見せられん状態だから、俺とツネ兄ちゃん、三枝さんでやる。

 俺が知る限り、オヤジは通帳とか、重要な物を触らせてもらってない。ジジイに小遣いもらってた。


 ここに貴重品はない筈だ。


 部屋を埋め尽くすゴミをスコップで一気に、袋詰めする。

 何かする度に虫が逃げ惑う。

 山端家の間取図-最低限の生活空間

 挿絵(By みてみん)

 汚屋敷レベルが高い場所では、スコップは掃除用具になります。

 素手? 無茶言うな。

 ケンちゃんとマホちゃんは、幼い頃からGを見慣れているので、いちいち悲鳴を上げたりしません。不憫。

 ※茶色=収納家具やガラクタや、ゴミ等の堆積エリア。

 ※黒色=部屋の存在すらよくわからない不明なエリア。

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【関連  「汚屋敷の跡取り
ゆうちゃん視点の話で「汚屋敷の兄妹」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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