074.親父
俺達は、二手に分かれて部屋の物出しを始めた。
もう三日目だからか、みんな要領よく運び出す。
今朝はノリ兄ちゃんと双羽さんが庭で待機。三枝さんが中の作業を手伝ってくれた。
居間の隣も、居間と同じ十畳の和室だった。真穂と藍ちゃんに任せる。
何年も窓を開けていないせいで、埃や黴の胞子と湿気で、空気そのものが物理的に重い。その中に雑妖が満員御礼。
物を出して窓を開けただけで、かなりの雑妖が消えた。
オヤジルームは、雑妖で中の様子が物理的に見えない。
三枝さんが呪文を唱えて剣を振る。雑妖が一掃された。
雑妖が居なくなり、視界が拓けた。
居間の隣同様、いつから換気していないのか、ヤニと埃、黴の胞子と湿気で、空気そのものが濃密な毒だ。
レベル低い系の週刊誌と、使用済みティッシュ、脱ぎ散らかした服と煙草の吸殻、スナック菓子や菓子パンの袋、ペットボトルが山盛りになっている。
辛うじて布団だけが平ら。年単位で干していないから、汗と皮脂が饐えた臭いを放っている。
壁際は全て箪笥で、奥の襖の前にも箪笥がある。
それで何で、足の踏み場もないどころか、服が山になっているのか。
布団周辺は膝の高さ、部屋の奥は俺の胸くらいの高さに盛り上がっている。
俺は何も考えずに掛け布団をめくった。
「うわぁあぁあぁッ!」
ツネ兄ちゃんが悲鳴を上げる。三枝さんも息を呑む。
丸々太った五センチ級のGが、十匹近く一斉に走った。四方八方に散り、ゴミや雑誌、脱ぎ散らかした服の山に逃げ込む。
その動きにつられたのか、驚いたのか、部屋中から、カサカサ、カサカサ、音が聞こえた。
心底、土足でよかった、と思った。
Gが居なくなった敷布団は、ホントにもう、いつの昔から干していないのか、人の形にへこんで黒ずんでいる。
皮脂と黴だろう。
黒い粒はGの糞。
マスクをしているのに、ヤニと饐えた臭いが、鼻の奥すら通り越して、喉の奥にまでへばりつく。
枕には抜け毛とフケ、寝煙草の灰が散り、焦げ跡がついている。
試しにこっちも、ちょっと蹴ってみた。
またまた、Gの群が周辺のゴミ山に逃げる。
ずれた枕の下には、小さな蛆の集団がいた。頭、枕、布団から適当な湿気とフケと皮脂、食べこぼしなんかも供給されるから、居心地がいいんだろう。
よくこんな所で寝られるもんだ。
人間の屑ってフレーズはよく聞くけど、ゴミ屋敷を作る奴は何て呼べばいいんだろう。
ウチは別に貧乏じゃない。
寧ろ、貯金も山も土地も持ってて、どっちかっつーと、金はある方なんじゃないか?
なのに、なんでこんなゴミ溜めに住んでるんだろう?
こんなのと血が繋がってると思いたくない。
色んな意味で女子供に見せられん状態だから、俺とツネ兄ちゃん、三枝さんでやる。
俺が知る限り、オヤジは通帳とか、重要な物を触らせてもらってない。ジジイに小遣いもらってた。
ここに貴重品はない筈だ。
部屋を埋め尽くすゴミをスコップで一気に、袋詰めする。
何かする度に虫が逃げ惑う。




