071.寿命
「お祖母ちゃん、後七年、自分の幸せの為に生きてね」
ノリ兄ちゃんの妙な励ましに、みんな首を傾げた。
「お祖父ちゃん達が、お祖母ちゃんを大事にしてくれないんなら、お祖母ちゃんは、お祖母ちゃんを大事にしてくれる人と暮らして、幸せになればいいんだよ」
「そうだ、お袋、オヤジも兄貴もお袋よりゴミが大事だげ、怒られんのイヤなら、ウチぃ来るがえぇ」
逸早く理解した叔父さんが祖母ちゃんに言う。
祖母ちゃんは、政晶くんの手を撫でながら、首を横に振った。
「難しいげ、考えさせてくれんが?」
「えぇが、えぇが。しっかり体治して、退院してからでえぇが」
病院を出てすぐ、ノリ兄ちゃんに聞いた。
「あと七年って何が?」
「お祖母ちゃんの寿命」
あっさりした返事に、頭を殴られたみたいになって、声の代わりに涙が出た。
魔法使いってそんな事までわかんのかよ。
「三界の眼だからね。その人にピントを合わせたら、大体分かるんだよ。残り十年切ってたら、何年後の何月何日までわかるし」
じゃあ、俺も、わかるようになってるって事なのか?
途端に人の顔を視るのが怖くなり、視線を足元に落とした。
「借りてる人は、ピントを合わせ難いみたいで、みんな、わかんないって言ってたよ」
こんなヤバイ視力、割と気軽に貸し出してんのな。
俺は話題を変えてこの場を逃げた。
「俺、クリーンセンターに行って、ジャヌコに寄って帰る。真穂も来てくれるか?」
「うん、いいよ」
助手席に「視えない」真穂が居るだけで、少し気が楽になった。
真穂と取りとめもない話をして灰を捨て、田舎にありがちな馬鹿でかい駐車場付きのショッピングモールで、買物を済ませた。
ステンレスの丈夫なラック。
これなら、カラーボックスみたいに腐らない。組立式で、バラせば場所も取らない。
プラケースは、透明で中が見える物。
在庫品がどのくらいあるかわかれば、余分に買う事もないだろう。