070.見舞
「一度に入ると他の人に迷惑だから」
真穂が言って、まず、よく知っている身内が説明する事になった。米治叔父さん、藍ちゃん、コーちゃん、俺、真穂の順で入る。
四人部屋だけど、他のベッドは空だった。
祖母ちゃんがテレビを消して起き上る。祖母ちゃんの周りで、花が咲くみたいに光がパッと広がった。少女漫画で、キャラの背景に花が咲くのがあるけど、正にあんな感じ。
「まぁまぁ、みんな、いい所に来てくれたが、ありがとね」
祖母ちゃんは顔を梅干しみたいにして喜んだ。
向かいの人は一時帰宅、隣は検査、斜めは手術で留守だった。
残りのメンバーも病室に入る。
「祖母ちゃん、久し振りー。俺、政治、覚えてるー?」
マー君が軽いノリで挨拶した。
「マー君、よう来たが、よう来たが。ありがとね」
「こいつは俺の息子の政晶。嫁は今年の春、病気で亡くなったんだ」
マー君に背中を押され、政晶君が祖母ちゃんの前に出る。
祖母ちゃんは、泣きながら政晶君の手を握って、さすった。
「ご無沙汰してます。経済です」
ツネ兄ちゃんが声を掛けると、祖母ちゃんはまた喜んだ。
「ツネちゃん……立派になって……」
「初めまして。宗教です」
「まぁあ、ノリ君、元気になったが」
「うん。ちゃんと育ってなくて、声変わりしてないけど、一応、働いてるよ」
「お仕事できるの。よかったねぇ、よかったねぇ。瑞穂は、どうせすぐ死ぬなんて言ってたげ、ホントよかった……」
祖母ちゃんが、またまた涙ぐむ。
双羽さんが、ノリ兄ちゃんが王族である事と、来年にはあっちに行って、もうここには来られない事を説明した。
それから、自分と三枝さん、使い魔の説明をする。使い魔は、執事さん風の年配の男性の形になっていた。
祖母ちゃんは、わかったような、わからないような神妙な顔で頷いた。
「このみんなで大掃除して、最低限の所はキレイになったから、松葉杖でも大丈夫だよ」
「後でお父さん達に怒られんが?」
俺の説明に祖母ちゃんの顔が曇る。
「あぁ、それなら大丈夫。区長さんと住職さんと、駐在さんと消防団長さんと、隣保長さんが賛成してくれて、もし怒られたら、庇ってくれるって、約束してくれたから」
真穂が言うと、祖母ちゃんは泣きだした。
「ごめんねぇ……みんな、ごめんねぇ、苦労掛けて……」
「いいよ。苦労してんの祖母ちゃんだし」
「ゴミがなきゃ、そもそもこんな怪我せんで済んだが」
俺と叔父さんがフォローする。




