007.工作
お兄ちゃんからもう一件、メールが来た。さっきの続きだ。
Re:おばあちゃんが骨折
本文:だから、お前は何かテキトーに理由付けて、今年は絶対、残れ。
一緒に大掃除しよう。出て行く荷物をまとめて、先に送れ。
私は改めて自分の部屋を見回した。
古い布団一組、折り畳み式の小さなテーブルひとつ。
教科書とノートだけを詰めたカラーボックスひとつ。
文房具を入れた引出し代わりのお道具箱が、ひとつ。
ハンガーに制服とコート、マフラー。床には通学鞄。
パジャマや私服は、小さな衣裳ケースひとつ分だけ。
押入れはあるけど、布団を片付ける以外、何もない。
お祖父ちゃん達は、ゆうちゃんには色々な玩具をたくさん買い与えている。未だに。
でも、私とお兄ちゃんには、何も買ってくれない。
高校の教科書と制服と体操服は、先輩のお下がり。私服は従姉の藍ちゃんのお下がりと、バイトして自分で買ったもの。
お兄ちゃんは、服とノートパソコンだけは、お祖母ちゃんに買って貰ってた。
お祖父ちゃんとお父さんは、お祖母ちゃんがお兄ちゃんの服を買うのは黙認していた。
でも、私の服を買ったら、「こんなチャラチャラしたもん買いやがって!」「無駄遣いすんな!」ってマジ切れ。
その度に、お祖母ちゃんが私に「ごめんねぇ……真穂ちゃん、ごめんねぇ」って泣いて謝るから、小学校の三年生の時に、もう私の服は買わないでって断った。
ノートパソコンは高かったみたいだけど、学校で要るからって言ったら、何も言われなかったらしい。
お兄ちゃんは、家出する時にノートパソコンをくれた。
元々、ゆうちゃんの部屋に回線を引くついでに、見栄を張って私とお兄ちゃんの部屋にも引いてたから、接続は問題ない。
お兄ちゃんには「頑張る」とだけ返して、ノートパソコンを起ち上げた。
私のバイト代で出せそうな旅行プランを検索する。
一人でも参加できるツアーや、温泉行きの格安女子旅プランが見つかった。どれもあまり人気のない観光地で、この時期でも枠が余っていた。
プランの候補を三件に絞って、菜摘ちゃんにメールした。
件名:お願い
本文:菜摘ちゃん、アリバイ工作に協力して欲しいんだけど、いいかな?
それだけ送って少し待つ。すぐに返信が来た。
Re:お願い
本文:何それ? おもしろそう! 何すればいい?