068.挨拶
私はピックアップした物をガレージに運んだ。
ノリ兄ちゃんが、ゴミの山を焼いていた。
駐在さんと消防団長さんが、敷地の外から呆然と、白い炎が踊る黒い柱を見上げている。
炎と柱が消えて、灰の山が残った。
何回見ても凄い。
三枝さんが水を操って、灰を溶かす。私はゴミ袋を広げて、灰捨てを手伝った。
我に返った二人が、ノリ兄ちゃんに声を掛ける。
「朝から精がでますな」
「殿下、もし、後で何か言われたら、我々におっしゃって下さい。真穂ちゃん達もな。祖父ちゃんに怒られても、我々は真穂ちゃん達の味方だ」
駐在さんの言葉が嬉しくて、涙が込み上げる。
家族よりも、他人の方が優しくてあたたかい。
私は何も言えなくて、二人に深く頭を下げた。
「住人には説明しましたげ、何人か『本人が直接挨拶せい』ってゴネましてね。殿下、申し訳ありやせんが、後でお時間、頂戴できませんでしょうや?」
消防団長さんが、ノリ兄ちゃんに精一杯の敬語で言った。
きっと、畷さんだ。
ノリ兄ちゃんは普通にOKしてくれた。
気さくな王子様……
段ボールを抱えた叔父さんが出てきて、夕方、区長さんの家に集まる事に決まった。
二人はノリ兄ちゃんと叔父さんに何度も頭を下げながら、帰って行った。
午前中だけで、台所、廊下、物置部屋、居間と、お祖父ちゃんお祖母ちゃんの部屋の半分が片付いた。半分って言うのは、押入れはまだだし、箪笥を除けたら襖が出てきて、もう一部屋あったから。
コーちゃんと政晶君が、ご飯に呼びに来た。
灰袋を軽トラに積んで、分家に引き揚げた。