061.許婚
みんなでガンガン物出しをしてると、畷さんがやって来た。
「お? 真穂ちゃん、今年は島へ行かんが?」
「お祖母ちゃんが大怪我したんで」
私は慎重に言葉を選んだ。
「何、水臭ぇ。一言いってくれりゃ、手伝うたに。どれ、何運ぶが?」
畷さんは猫なで声で言いながら、ずかずか敷地に入って来た。畷さんに限らず、この辺の人は割と気楽に他人ん家に上がり込む。
普通はそうじゃないって知ったのは、高校に入ってから。
「人数足りてますから、手伝ってくれなくて大丈夫です。身内だけで充分ですから」
「身内? そのガイジンも身内げ? 許婚の儂ぁ身内も同然が?」
「真穂ちゃん、この人のお孫さんと結婚するの?」
ノリ兄ちゃんが素で質問してくれた。
「あー、それ、この人、本人なんです。お祖父ちゃんとこの人が、勝手に盛り上がっちゃって、私、お断りしたんですよ。年が離れ過ぎてるから」
「ふーん。そうだよねぇ」
「何だお前は? 男は年取れば取る程、深みが増してイイんだ」
「何って、従兄です。お爺さん、どなたですか?」
「イトコ? あぁ、瑞穂ん子げ。俺はこの真穂の許婚、畷家の長男、稲造だ」
畷さんはふんぞり返った。
護衛の三枝さんが、ノリ兄ちゃんと私の前に立つ。畷さんは、ちょっと怯んで足を止めた。
ノリ兄ちゃんが小声で確認する。
「真穂ちゃん、この人、好き?」
「生理的にムリ」
「畷稲造が、山端真穂に百歩以上、近付く事を禁止します」
ノリ兄ちゃんは冷たく言って、杖で畷さんを指した。
畷さんが回れ右して、出て行く。
「お……おっ? おぉおぉおぉッ? 何じゃこりゃあ! 足が勝手に……!」
畷さんは訳のわからない悲鳴を上げながら、顔だけこっちに向けた。
足はどんどんウチから遠ざかる。少し行った所で立ち止まった。
振り向いて、足踏みしている。
「何しやがった! 壁を除けんが!」
壁なんてない。
畷さんが農道の真ん中で足踏みしてるだけだ。
「名前を呼んで強制したんだよ。僕が禁止を解かない限り、真穂ちゃんに近付けないよ」
「ありがとう……ございます」
なんだかわからないけど、助けてもらっちゃった。
魔法ってホント凄い。
畷さんは、暫く壁を叩くパントマイムをしてたけど、口汚く罵って帰って行った。
ノリ兄ちゃんは、何事もなかったみたいにゴミ焼きの魔法を使った。