058.汚染
流し台と洗い籠にも食器が山盛り。
食器が多過ぎて収納が使えないから、使う直前に必要最低限だけ洗ってる。洗い籠はカビでカラフル。でも、洗えないし、買い替えさせてももらえない。
食器が欠けても使用を続行させられる。洗ってる最中に割れて、私とお祖母ちゃんは何度も手を切った。
三角コーナーと排水口も、掃除できないから常にヘドロみたいなのが詰まってる。毒ガスですかってレベルの異臭。毎回、割り箸で少しずつほじって、何とか水を流してる。
ゴキブリやコバエ、ナメクジを見ない日はない。
吊り戸棚と流しの上のステンレス棚は、鍋や食器、タッパがギュウギュウ。
全部煤けてベタベタ。
換気扇は、油煙で黒く固着して、スイッチを入れてもモーターが唸るだけで回らない。
ガスコンロは、油煙や吹きこぼれでコーティングされて、表面が見えない。所々腐食して、穴も開いてる。
何回「これヤバい」って言っても、お祖父ちゃんは「楽しようとすんな!」って謎理論で怒鳴るだけで、買い替えてくれない。
冷蔵庫は大きいの二台と小さいの一台。
メモやレシートがびっしり貼られて、何色かもわからない。紙類は変色して、文字が判読できないけど、剥がすと怒られる。
家族の人数に対して、冷蔵庫が大き過ぎるし多過ぎるのに、全部ぎっしり詰まってる。冷気が循環しなくて、電気代は洒落にならないのに、腐りやすい。ただでさえ、ウチの収穫物やお裾分けもあるのに、町に出る度に色々買って来る。
常に傷んだ物があるから、冷蔵庫も臭い。
でも、捨てたら「高かったのに勿体ない!」って怒られる。だからと言って、食べる訳じゃない。
シンク下の収納は、調味料とお祖母ちゃんが漬けた梅干、漬け物、梅酒、花梨シロップがぎっしり。古いのも新しいのもごちゃ混ぜ。
ここも鼠やゴキブリの糞に汚染されまくり。
よく今まで生きてたと思う。
こんな所でまともに料理できるワケないのに、お祖母ちゃんはしょっちゅう「メシがマズイ」って怒鳴られてる。
食中毒にならないだけでも、ミラクルなのに。
文句言うなら、傷んだ食材と欠けた食器くらい、捨てさせてくれればいいのに。
ガレージから野菜用の大きいプラ籠を持ちこんだ。
台所の細々した物を手当たり次第にブチ込んで、庭に運ぶ。何か動かす度に、ゴキブリとか色んな虫が何匹も一斉に逃げ回る。
足元に散らばる明らかなゴミは、スコップでゴミ袋へ。
廊下に出ると、クロエさんが洗濯機と乾燥機を脱衣所に戻していた。
心が折れそうになったけど、とにかくひたすら、外に運んだ。
心を無にして、物を出す。
テーブルの上にもお金が埋まっていた。
全部集めて、例の灰皿へ。
お金も粗末にしてる。
お祖父ちゃん達の「勿体ない」の基準がわからない。
わかりたくもない。
シンクに溜まった食器は、全部捨てた。
気分的に、下層のは、消毒しても使いたくない。