056.衛生
双羽さんは、西隣の畑から雪を取って、洋式トイレの掃除を始めた。
洗剤湿布を剥がした水が、くるくる渦を巻いて、トイレットペーパーをゴミ袋に捨てた。
私は段ボールを置いて、キレイになった水に、湿布にしたのと同じ洗剤を足す。
双羽さんは頷いて、トイレ掃除を再開した。
トイレの在庫出しと、洋式トイレ掃除は、ほぼ同時に終わった。
壁や窓硝子のヤニが取れて、白く輝いている。金属パイプに顔が映る。便器も尿石が取れて真っ白。タイルの黴もなくなって、マスク越しでも吐きそうだったあの臭いもしない。
魔法凄い。
新品のペーパーをセットして、ふわふわのタオルを掛けて、終了。
手洗い場の収納も空にして、男子トイレ&手洗いコーナーも、双羽さんにお願いした。
五人と魔法使いで集中したら、「終わってる汚トイレ」が、あっという間に普通の家レベルになった。
テンションが上がる。
「よし、次、お風呂!」
お兄ちゃんが言って、脱衣所に積み上がった段ボールを下ろす。
「双羽さん、お風呂掃除お願いします。塩素使ってるんで、水だけでして下さい。すみませんけど、そこのタオルは全部捨てて下さい」
「了解」
軍人らしいキビキビした返事。つられて私の動きもキビキビする。
五人でどんどん在庫の箱を出す。
倉庫の前に在庫の段ボールが積み上がって、壁になる。
脱衣所の段ボール壁の後ろに、カラーボックスが幾つも埋まっていた。カラーボックスの上にも段ボールが積んである。
こんなのがあるから、狭いんだ。
カラーボックスの中身は汚いから、全部捨てた。
小さい虫がいっぱい居る。
カビだらけのカラーボックスも捨てた。
在庫の山をどうするか、後で考えよう。
今は、とにかく出す。
洗面台の収納の物を庭に出す。
体が芯から熱くなって、汗が流れる。
みんな無言でひたすら運んだ。
こんなにたくさん、一生掛かっても使い切れる訳がない。
双羽さんは、風呂場を天井までキレイにしてくれた。
全く黴がない。経年劣化でちょっと塗装が剥がれてるけど、浴槽もタイルもピカピカだった。塩素臭もない。カラフルなヘドロもない。
古びた洗面器も、あんなにしつこくこびり付いていた湯垢が取れている。
私は、まだ新しい箱から、シャンプー、リンス、石鹸をひとつずつ出して置いた。
空になった収納棚に何を入れるか、後で考える。
洗濯機と乾燥機も、コンセントを抜いて庭に出した。洗濯機と乾燥機があった場所は、埃、髪、虫、糞、死骸のカオスだった。
よくトラッキング火災にならなかったな、とツネ兄ちゃんが呆れる。
空っぽで黴だらけの脱衣所掃除も双羽さんにお願いした。双羽さんは嫌な顔ひとつせず、脱衣所のカオスを一掃する。
魔法の水が、逃げる虫を一匹残さず捕まえる。
ツネ兄ちゃんが、双羽さんを庭に呼んだ。
汚れを取り除いてから、電源を入れて動作チェックするらしい。