053.護衛
「お呼び立てしてすみません。俺の事は、覚えてますよね?」
マー君が言うと、区長さんが顔をくしゃくしゃにして笑った。
「マー君が。よう覚えとるげな。瑞穂の旦那そっくりになって……」
「父さんを覚えてるなら、話が早いや。父方の曽祖母が、ムルティフローラ王国の王女なんです。宗教は王位継承順位、最下位だけど一応、王族の端くれ。後ろの二人は、護衛の近衛騎士」
みんなびっくりし過ぎて、声も出ない。
「ムルティフローラは魔法文明国で、魔力が足りないと王家と血縁でも、王族とは認められません。宗教だけ魔力があって、他のみんなはないから、単にこの国の庶民です」
「それで、僕だけ十八歳の時にムルティフローラ国籍にして、今は教授の在留資格で、この国に住んでます」
藍ちゃんが、恐る恐る口を開いた。
「あの……ひょっとして……王子様?」
「声変わりしてなくて、声はこんなだけど一応、男だから、そうなるね」
ノリ兄ちゃんから、微妙にズレた答えが返って来た。
「親戚に会いに来ただけだから、普通に親戚扱いして下さい。護衛も別に要らな……」
「殿下。少しは懲りて下さい」
「……はい。ごめんなさい」
双羽さんから怖い声が降る。ノリ兄ちゃんは小さな声で謝った。
「県警の方々にもお伝え致しましたが、通常の地域巡邏で結構です」
「失礼ですが、お二人で大丈夫ですか?」
「万一の事態があれば、賊は魔法の使い手である可能性が高く、この国の警察では、対応に限界がございますので」
双羽さんと駐在さんの遣り取りをみんな、呆然と聞いてる。
何コレ凄い。この人達、本物のSP?
映画みたい。っていうか、親戚に王子様が居るとか、聞いてないよ。
「クロも居るから、普通の強盗とかなら、大丈夫ですよ」
ノリ兄ちゃんが黒猫を抱き上げて、にっこり笑う。
クロは澄んだ声で、ニャーンと言った。
「任せろ!」的な意味?
可愛いけど、猫じゃ強盗、無理でしょ。
「クロは僕の使い魔で、魔法生物だから、魔法の使えない人が相手なら、大丈夫ですよ」
「マホウセイブツ?」
幾つもの声が重なる。
何それ?
「魔法で人工的に作られた一世代限りの生物で、能力は個体差があります。クロは、僕の魔力を食べるから、基本的にご飯は要りません。人間よりずっと力持ちで、色々変身できて、とっても役に立つんです。ねーっ?」
ノリ兄ちゃんに同意を求められて、クロはニャーンと返事した。褒められて気をよくしたのか、ゴロゴロ喉を鳴らし始めた。