005.離島
お母さんの実家は、師国沖の離島で、漁師の網元。
連絡船は一日一往復で、歌道山町からだと、電車とバスと船を乗り継いで、二、三日掛かる。乗り継ぎのダイヤが噛み合ってなくて、待ち時間が長いから。
電車も、歌道山町から最寄り駅までは、車がないと行けない距離。ガソリン代が高くつくから、不便でも電車を使う。駅から船着き場は、バスの始点から終点まで。
お祖父ちゃんとお父さんは、毎年、お兄ちゃんと私を連れてお母さんの実家に行く。
お母さんが居ない事で、どれだけ迷惑してるか、文句を並べて散々飲み食いして、お金をせびって帰る。お兄ちゃんが家出した後も、しつこく私を連れて行く。
「殴ったら逃げられる」事を学習したのか、子供には物理的な暴力を振るわない。
母方の親戚は、お兄ちゃんと私が、もっと酷い目に遭わされたら可哀想だと思って、あまり強く言えない。
ゆうちゃんはお留守番。っていうか、部屋から出てこない。
私は一度も、ゆうちゃんの顔を見た事がない。お兄ちゃんは小さい頃、見た事があるって言っていた。
毎日、昼と夜、お祖母ちゃんが部屋の前にご飯を持って行ってる。
お祖母ちゃんは、「ゆうちゃんが出て来てくれない」って、毎日しょんぼりしてる。
ご飯を持って行かなきゃ、その内、おなか空かせて出て来るのに。
お祖母ちゃんがそうやって甘やかすからだって、何回も言ってるけど、お祖母ちゃんは、可哀想ばっかり言って、甘やかしまくってる。
ゆうちゃんの世話があるから、お祖母ちゃんもお留守番。
所謂、ひきこもりと言うアレだ。
放っておいたら、何日で音を上げて出て来るか、試してみたい気はする。
でも、お祖母ちゃんと約束しちゃったから、仕方ない。
何かテキトーに、余り物でも与えとけばいっか。