048.発掘
雪下ろしのスコップを二本持って戻る。
クロエさんは黙々と、カラーボックスや棚を中身が詰まったまま、外に出している。
三枝さんは、ひとつずつ呪文を唱えて持ち出す。
「二本か……よし、ツネ兄ちゃん、真穂、スコップで掘ってくれ。俺は洗剤とか、重い物持ってくよ」
上の方から少しずつ、スコップですくってゴミ袋に入れる。
手でするよりずっとたくさん入れられて、凄く捗る。
重くて固い手応え。
周囲のゴミを手で除けたら、洗剤の段ボールが出て来た。
スコップで慎重にゴミを除けて、お兄ちゃんに交替。お兄ちゃんは、食器用洗剤が二ダース入った箱を持って庭に出た。
玄関からトイレ前までの廊下には、背の高い棚が九つ、低い棚が六つ、カラーボックスが十二個あった。
棚の前に棚があって、奥は完全に使用不能。部屋の入口を塞ぐ壁。
玄関の右手側は、洋間と納戸。
左手側は、玄関に近い方が仏間、奥はツネ兄ちゃんも知らない部屋だった。
洋間の入口は、玄関の右奥にもあった。靴箱で塞がってて、私は気付かなかった。
どの部屋も、物がギュウギュウで人が入れなくて、広さがわからない。
スコップと魔法の導入で、廊下の物出しが面白いくらい進む。
三枝さんが、階段と謎の部屋の間の棚を除けると、また同じ大きさの箪笥が出て来た。
何でこんな所に服置いてんの?
クロエさんが箪笥を運び出すと、更に箪笥が出て来た。
私とツネ兄ちゃんが、お父さんの部屋の前まで掘り進む。
お兄ちゃんは、発掘した新品の洗剤やゴミ袋、電池、ビニール紐の段ボールを抱えて外に出す。魔法なしで運んでるから、汗だくだ。
お中元やお歳暮のタオルや調味料、油、ジュース、缶詰、石鹸、シャンプーセットとかも、箱のまま出て来た。箱もラベルもすっかり色褪せてる。缶詰は、缶が腐食して破裂して、箱に浸み出してるのもあった。
三枝さんが呪文を唱える以外、みんな、無言でゴミ出しをした。
心が空っぽになる。
私とツネ兄ちゃんも、汗だくになっていた。
息苦しくなってきたけど、ここでマスクを外すと、大変な事になる。
早く終わらせる為に、どんどん手を動かして、ゴミ袋を外に出す。
外で深呼吸して、すぐ作業に戻る。
「廊下に埋まってたものだけで、もう充分なんで、棚は丸ごと焼いちゃって下さい」
お兄ちゃんが言うと、ノリ兄ちゃんはクロエさんに指示を出して、棚をゴミ焼き用の円の周囲に集めさせた。
黴や埃でドロドロの棚が円陣を組む。
異様な光景。
キレイな庭で見て、改めて、こんな物が家にあった事の異常さを思い知る。
家にあっただけ。全く使ってない。
いつからあるかすら、わからない。
ただの障害物。
ノリ兄ちゃんは、障害物の周囲に線を引きながら、呪文を唱えた。円が完成して、真っ暗になる。広くなったゴミ焼き円で、白い炎が全てを焼き尽くす。
私は中に戻って、作業を続けた。
台所まで後、一部屋分だ。