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汚屋敷の兄妹  作者: 髙津 央
第三章 真穂の十二月二十五日~十二月二十六日
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046.椅子

 「あッ! あの、ずっと、立ちっぱなし、大丈夫ですか? 椅子持って来ましょうか?」

 「ん? うん。あれば、ちょっと嬉しいかな」

 「ゴメンナサイ! 気が利かなくて! すぐお持ちします!」

 何もない玄関と廊下を駆け抜けて、その勢いでゴミエリアに飛び乗る。

 後はいつも通り、ゴミを踏み越えて汚台所に突入。


 確か、テーブルの横に椅子っぽい台があった筈。


 よく見たら、椅子っぽい台じゃなくて、テーブルとセットのちゃんとした椅子だった。

 背もたれに掛けられたスーパーのビニール袋と布鞄を外して、取敢えず床に置く。何かがいっぱい詰まった袋は、八つあった。

 座る部分に乗ってる段ボール箱を持ちあげる。何か異様に重い。


 クロエさんにお願いすればよかったかも。

 靴箱を運んだあの魔法を掛けてもらえばよかった。


 顔を真っ赤にして、何とか足の上に落とさずに済んだ。でも、箱の容量オーバーの積み上げ分が、雪崩(なだれ)落ちてしまった。


 もういい、後で捨てよう。


 座面には、食べこぼしや油煙でドブ色に染まった毛糸の何かが乗っていた。除けようとしたら、椅子ごと動いた。背もたれに(くく)りつけてある。


 もうッ! 何なのこれ?


 紐を(ほど)いて手に取る。

 座布団だ。裏は色褪せてるけど、元の色が青系だとわかる。

 多分、お祖母ちゃんがセーターか何か解いて、座布団カバーにしたんだ。

 捨てたら怒られるから。

 長い間、重い物が乗っていたせいで、座布団本体はぺったんこだった。


 って言うか、こんな汚座布団(おざぶとん)、王族様に出すなんてとんでもない。

 自分で使うのも絶対イヤ。無理。


 椅子だけ持って、廊下に戻る。ゴミ地帯を越えて、床エリアにそっと降りる。

 「上の物なら、降ろしたげるよ。どれ?」

 「あ、違うんです。ノリ兄ちゃんに……」

 「え? あッ! ありがとう。助かるよ」

 ツネ兄ちゃんも、今気付いたみたい。しまったって顔でお礼を言われた。


 でも、よく考えたら、こう言うのってお付きの人とかが用意するんじゃないかなぁ?


 私は庭に出て、三枝さんに共通語で話し掛けた。

 「エクスキューズミー……えっと、プリーズ、ウォッシュ、ディス、チェア……」

 ドキドキし過ぎて合ってるか自信ないけど、何とか言えた。私が椅子を置くと、三枝さんはにっこり笑って、水の魔法で洗ってくれた。

 流石に新品同様とはいかないけど、キレイになった。油煙でベタベタで真っ黒だったけど、茶色い木目が見えて、ニスが輝く。

 「ボロくてすみませんが、どうぞ」

 「わざわざゴメンね。ありがとう」

 円の中に椅子を置くと、ノリ兄ちゃんは座ってくれた。円の中は何故か温かい。


 ホント、魔法ってスゴイ。

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【関連  「汚屋敷の跡取り
ゆうちゃん視点の話で「汚屋敷の兄妹」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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