042.廊下
双羽さんが、廊下の天井掃除を再開する。
水の濁りがハンパない。
この家の天井は、ひょっとして、建ててから一度も掃除してないんじゃないのか?
「廊下は、掃除に使える物も埋まってるから、ゴミ袋と洗剤類、タオル類は倉庫の前に置いて下さい。それ以外は、ゴミ袋に入れてゴミを焼く場所に置いて下さい。それから、もう、いいんで、土足で上がって下さい」
「クロエ、今、彼女が言った事を実行しなさい。……名を呼んでから、命令して下さい」
真穂の説明を双羽さんが補足した。
いや、普通、わかるだろ? クロエさんって一体?
床の堆積物を手前からゴミ袋に詰める。
玄関の物がなくなって初めてわかったが、廊下の堆積物は、厚さ五十センチくらいあった。
俺が、朽ちたお裾分け入り紙袋と一緒に雑妖を掴んでも、すり抜ける。
クロエさんは煩わしそうに雑妖をつまんで、ゴミ袋に入れている。
雑妖が入っても、ゴミ袋は膨らまない。
クロエさんは、脱ぎ散らかされた作業服や、ゴキブリの死骸と一緒に雑妖もどんどん袋詰めにする。
ツネ兄ちゃんが、雑妖がくっついていない部分を持って、段ボールを引っ張り出した。
乗っていた雑妖が、視えない壁に当たって廊下に落ちる。ツネ兄ちゃんは、ゴミを安全地帯に入れてから、袋詰めしていた。
俺も真似する事にした。
真穂は何も視えないからか、雑妖の集る崩れた古新聞の束を抱えて、廊下と玄関を何往復もしていた。発掘したビニール紐で束ねて外に出す。
廊下の天井掃除が一段落した双羽さんは、外の三枝さんに声を掛け、水を渡した。
三枝さんが、塀を洗う。
双羽さんも、ゴム手袋を装備した。
ツネ兄ちゃんと同じで、雑妖が居ない所を掴む。時々、小声で短い呪文を唱える。
何の音もなく、二メートルくらい先までの雑妖が消えた。でも、すぐに奥から湧いて来て、いっぱいになる。
……キリがないな。