041.現金
俺、真穂、ツネ兄ちゃんの三人で、靴箱の上の不燃物も可燃物もいっしょくたに、ゴミ袋に放り込む。
何故か、硝子製のごつい灰皿が出て来た。
双羽さんに洗ってもらい、発掘した小銭を入れる。硬貨はどれも、素手で触る事すら躊躇うレベルの物ばかりだった。
何の金か知らないが、千九百八十円入った茶封筒も出て来た。
封筒はヘンな染みが付いている。現金だけ灰皿に入れた。
他は、観光地土産の置物、ミニ提灯、木彫りの熊、干からびた水槽、枯れた盆栽、河豚提灯、埃塗れの翡翠の馬、翡翠の鶏。吸殻山盛りの陶器の灰皿、紙袋、紙箱だった。
翡翠の鶏は何故か、温かかった。明らかに中に何か居る。
思わず落としたら、丁度、ツネ兄ちゃんのゴミ袋に入った。
紙箱の内二つは、中身が入っていた。
真穂が蓋を開けると、雑妖が飛び出して来た。
イヤなびっくり箱だが、視えなければ何ともない。
薄紙に包まれた桐の下駄と、草履。箱は汚いが、中身は汚れていない。
「どうする? 置いとく?」
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんのみたい……これはまぁ、置いとこっか」
一応、真穂にも聞き、意見が一致したので、箱は捨てて中身だけ倉庫の前に置いた。
三人掛かりで合計六袋を満タンにして、靴箱の上から物がなくなった。
現金入りの灰皿だけ倉庫前に置き、三和土の小銭を一緒にする。
「この靴箱は、どう?」
「開けちゃいけない気がします」
「クロエ、この靴箱も、先程の円に運びなさい」
ツネ兄ちゃんに聞かれたが、イヤな予感しかしなかった。
どの靴箱も、鼠や害虫……だけじゃなくて、化け物の巣だ。
このまま焼いてもらうのが、一番いい。
でかい靴箱は二つとも、背板が黴で真っ黒だ。中身も多分、そうだろう。
完全に空っぽになった玄関を、双羽さんが水で丸洗いする。壁にこびり付いていた埃やヤニがごっそり取れる。
水の汚れをゴミ袋に捨て、清水で廊下と玄関の間に壁を作った。
「ちょっと待ってね」
ノリ兄ちゃんが、何もない玄関に入る。杖を引きずりながら、呪文を唱える。
歌うような不思議な抑揚だ。三和土と同じ大きさの矩形が完成する。
ノリ兄ちゃんは、三和土の中心に立ち、結びの言葉を唱え、石突きでトントンと足元を打った。
杖で囲んだ範囲が、明るくなった。
光が点った訳ではない。
ただ、場が目も醒める鮮烈な明るさに切り替わった。
画像処理ソフトで、写真の明度をいじったみたいだ。
「玄関を安全地帯にしたよ。雑妖はここから外に出られなくなったからね」
「えっあ、ありがとうございます」
ノリ兄ちゃんは、それだけ言うと、庭の安全地帯に戻った。




