040.靴箱
古い家なので、間口は広い。
玄関の三和土は、畳を横に三枚並べたくらいある。
戸口に対して直角に、背の低い靴箱が置いてある。上には色んな物がごちゃごちゃ乗っていて、もれなく埃を被っている。
現金以外の物は要らん。
靴箱は他にも二つある。
戸を半分塞ぐ形で、二メートル級の傘立てが置いてあった。その隣に、天井まで高さのある靴箱が二つ、向い合せに聳え、文字通り双璧を成している。
人数に対して、靴が多過ぎる。
履けない靴を捨てさせてくれない理不尽。
「真穂、そっち宜しく。俺、こっちの大きい方やるゎ」
「了解」
どうせ中身は全部朽ちてる。
何も見ないで捨てよう。
「外の方が作業しやすいでしょう。クロエ、奥の靴箱をひとつずつ、ここに置きなさい」
双羽さんが、玄関から十歩くらい離れた場所を指差す。
クロエさんはイイお返事をして、靴箱に近付いた。
「あ、これ、中身入ってるんで」
「そうですか」
「いや……そうですかって……」
クロエさんは、それ以上俺に構わず、傘立ての隣だった靴箱に手を添えた。
特に呪文を唱えた様子はない。
クロエさんは、空の段ボールでも動かすように、ひょいと靴箱を持ちあげた。斜めにして、天井に当たらないよう、方向転換する。
俺は、廊下に上がった。ツネ兄ちゃんと真穂が外に出る。
中の物が動く重い音がしているが、クロエさんは顔色ひとつ変えずに出て行った。
地面に置く音は、明らかに相当な重量物のそれだった。
「クロエの事も後で説明するよ。さっさとやろう」
「は、はい。あ、その靴箱、開けない方がいいと思うんで、もう、丸ごとポイで……」
ツネ兄ちゃんに言われ、真穂が言うと、クロエさんは首を傾げた。
「クロエ、その靴箱は二つとも、先程の円に運びなさい」
ゴミ焼きはとっくに終わっていた。
双羽さんは水を操り、三枝さんが広げたゴミ袋に灰を移していた。
クロエさんはイイお返事をして、イヤな顔ひとつせず、靴箱を運んだ。