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汚屋敷の兄妹  作者: 髙津 央
第二章 賢治の十二月二十五日
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039.傘立

 双羽(ふたば)さんが操る水は、玄関の天井から汚れを剥がし終えると、一旦、ゴミ山に汚れを吐き出した。清水になって、家の奥に進む。

 今度は廊下の天井だ。

 「クロエさん、次は傘立ての傘。全部捨てます。ゴミを焼いた場所に運んで下さい」 

 「はい、賢治さん」

 「ケンちゃん、いいのか?」

 「全部捨てて、一人一本ずつ新品買った方が早いです。確認する時間が勿体(もったい)ないんで」

 「私、自分のは部屋に置いてるから、大丈夫」

 ツネ兄ちゃんは心配してくれたけど、どうせ、まともに使える物なんてない。

 真穂はしっかり自衛していた。

 クロエさんは何の疑問もなく、傘立てに積み上がっていた傘を十数本、一気に抱えた。

 俺は、破れたレインコートを地面に広げ、その上に傘を積んだ。

 レインコートで包んで一気に運ぶ。

 重い。

 骨が金属だからか、傘の束は予想以上に重かった。


 クロエさん、意外と力持ちなんだな。


 「クロエ、傘立てを先程の円に運びなさい」

 「はい、双羽隊長」

 「えっちょっ……」

 傘立ては、まだ上に乗っていた物を除けただけで、ギッシリ傘が詰まっている。っつーか、傘立て本体も幅二メートルくらいある金属のごつい物だ。こんな女性に無茶振りするにも程がある。

 ゴミ山から玄関に戻ろうとして、俺は固まった。

 クロエさんは、双羽さんに言われた通り、一人で巨大な傘立てを運んでいた。

 俺なら多分、持ちあげる事すらできない。


 魔法……? 何か魔法使ってんの?


 重い地響きを立てて、傘立てはゴミ焼きの円内に置かれた。

 双羽さんが玄関の三和土(たたき)を洗う。

 水流が、何十年も放置された汚れを根こそぎにする。あっと言う間に水がドブ色に染まる。

 鼠やゴキブリの糞、朽ちたお裾分けの腐汁、黴、虫の死骸、埃、ダニ。

 バイオ系の毒に染まった水が、ふわふわ宙を漂い、傘立ての上に毒を吐き出した。黒い粉が塊になって落ちる。

 水は、玄関とゴミ山を三往復して、廊下の天井掃除に戻った。

 一滴も残らず、玄関は乾いてさっぱりしていた。

 「おひさまの端っこ借りて、このゴミ、一回焼くね」

 ノリ兄ちゃんが、安全地帯から出る。三枝(さえぐさ)さんが駆け寄り、無駄のない動きで雑妖(ざつよう)を斬り捨てた。

 ノリ兄ちゃんが円を描き直し、呪文を唱える。さっき同様、闇の円柱の中で白い炎が躍った。


 おひさまの端っこ……

 多分これ、コロナかプロミネンスなんだ……


 「靴箱の上は、集金のお釣りとかあるかもしれないから、ちゃんと見よう」

 ツネ兄ちゃんに言われ、我に返る。

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【関連  「汚屋敷の跡取り
ゆうちゃん視点の話で「汚屋敷の兄妹」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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