038.廃棄
マスク、ゴム手袋を装備。
俺、真穂、ツネ兄ちゃん、クロエさんが、ゴミ袋を手にして横一列に並ぶ。
戸を外した玄関口の三分の一は、バカでかい傘立てが塞いでいた。
双羽さんの入る余地がない。
「では、私は別の作業をしましょう」
双羽さんはゴム手袋を外し、水に命令した。
雪解け水がふわりと浮かび、玄関の天井を這う。埃塗れの蜘蛛の巣、煤、砂埃、黴が洗い流される。
表面を流れてるんじゃない。高圧洗浄みたいだ。
見とれてる場合じゃなかった。
俺はヘドロに手を入れた。何の手応えもない。この世のヘドロじゃないんだ。
底抜けサンダルをゴミ袋に入れた。
他の三人も無言で、割れ下駄、破れ長靴、黴靴、ボロ革靴をゴミ袋に入れる。
靴底単体、鼠の歯型付きビーチサンダル、何故かベタつく革靴、ゴキブリの死骸入り靴、鼠のミイラ入り長靴、千切れツッカケ、折れパンプス、破れレインコート、破れ傘、ヘシ折れ折り畳み傘、終わってるお裾分け、腐れ段ボール、噛み千切られた靴紐、鎌で切ったっぽい長靴、古新聞、変色した幼児用スリッパ片っぽ、トイレサンダルの割れた奴、煙草の穴が開いたズック靴片っぽ、変色した革靴、鱗状に剥がれた革靴……
何か動かす度に埃と胞子が舞い上がる。
マスク越しにも黴臭い。
鼠の尿なのか、アンモニア系の刺激臭もある。
冬でよかった。
朽ちたお裾分けの腐臭は、干からびているせいか、かなりマシだった。
ゴミ袋が満タンになる度に、ゴミ焼きの円に運ぶ。
ツネ兄ちゃんが、小銭を拾って俺にくれた。
二百十八円。
硬貨にも埃と虫の糞がこびり付いている。
後で洗おう。
俺は小銭を倉庫の前に置いた。
絶望的に思えた玄関も、四人掛かりなら、あっという間だった。
庭に黒い山ができた。
三枝さんは、ゴミ袋から浸み出した雑妖を斬っていた。
ノリ兄ちゃんの方に行った雑妖が、見えない壁にぶつかる。足元の小さい円は、安全地帯なのか。