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汚屋敷の兄妹  作者: 髙津 央
第二章 賢治の十二月二十五日
38/130

038.廃棄

 マスク、ゴム手袋を装備。

 俺、真穂、ツネ兄ちゃん、クロエさんが、ゴミ袋を手にして横一列に並ぶ。

 戸を外した玄関口の三分の一は、バカでかい傘立てが塞いでいた。

 双羽(ふたば)さんの入る余地がない。

 「では、私は別の作業をしましょう」

 双羽さんはゴム手袋を外し、水に命令した。

 雪解け水がふわりと浮かび、玄関の天井を這う。埃塗(ほこりまみ)れの蜘蛛の巣、煤、砂埃、(カビ)が洗い流される。

 表面を流れてるんじゃない。高圧洗浄みたいだ。


 見とれてる場合じゃなかった。


 俺はヘドロに手を入れた。何の手応えもない。この世のヘドロじゃないんだ。

 底抜けサンダルをゴミ袋に入れた。

 他の三人も無言で、割れ下駄、破れ長靴、黴靴、ボロ革靴をゴミ袋に入れる。

 靴底単体、鼠の歯型付きビーチサンダル、何故かベタつく革靴、ゴキブリの死骸入り靴、鼠のミイラ入り長靴、千切れツッカケ、折れパンプス、破れレインコート、破れ傘、ヘシ折れ折り畳み傘、終わってるお裾分け、腐れ段ボール、噛み千切られた靴紐、鎌で切ったっぽい長靴、古新聞、変色した幼児用スリッパ片っぽ、トイレサンダルの割れた奴、煙草の穴が開いたズック靴片っぽ、変色した革靴、鱗状に剥がれた革靴……

 何か動かす度に埃と胞子が舞い上がる。

 マスク越しにも黴臭い。

 鼠の尿なのか、アンモニア系の刺激臭もある。


 冬でよかった。


 朽ちたお裾分けの腐臭は、干からびているせいか、かなりマシだった。

 ゴミ袋が満タンになる度に、ゴミ焼きの円に運ぶ。

 ツネ兄ちゃんが、小銭を拾って俺にくれた。

 二百十八円。

 硬貨にも埃と虫の糞がこびり付いている。


 後で洗おう。


 俺は小銭を倉庫の前に置いた。

 絶望的に思えた玄関も、四人掛かりなら、あっという間だった。

 庭に黒い山ができた。

 三枝(さえぐさ)さんは、ゴミ袋から浸み出した雑妖を斬っていた。

 ノリ兄ちゃんの方に行った雑妖が、見えない壁にぶつかる。足元の小さい円は、安全地帯なのか。

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【関連  「汚屋敷の跡取り
ゆうちゃん視点の話で「汚屋敷の兄妹」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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