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汚屋敷の兄妹  作者: 髙津 央
第二章 賢治の十二月二十五日
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037.解錠

 「ケンちゃん、戸を外して、玄関の物、全部出そう。まずは動線の確保だ」

 ツネ兄ちゃんに言われ、俺は倉庫に入った。ここも開けたらヘドロと化け物が流れ出た。

 ゾクゾク鳥肌が立つ。


 住んでて平気だったんだ。別状ない。別状ない。気にしたら負けだ。


 俺は自分に言い聞かせ、ごちゃごちゃした棚を手探りした。何か小さい物が色々落ちたが、気にしない。

 工具箱を探り当て、庭に戻る。

 玄関の戸は、金属格子にすり硝子が嵌り、ネジ式の鍵が付いている。玄関にしゃがんで雑妖を手で払う。俺がやっても素通りするだけで、奴らは平気だった。

 戸は上下に小さなレバーがあり、外から外されないようになっている。案の定、錆と埃で固まっていた。

 俺は、マイナスドライバーを梃子にして、レバーを押し上げた。


 ギチリ。


 不吉な音が立つ。一瞬、折れるかと焦ったが、何とかこじ開けられた。上は埃が少なく、簡単に開いた。

 外した戸は取敢えず、横向けにして倉庫に立て掛けた。

 「箱か袋に入れて全て出し、必要な物だけ戻しましょう。クロエ、こちらのお二人に指示された物を運びなさい」

 「はい、双羽(ふたば)隊長」

 クロエさんが期待に満ちた目で、俺と真穂を見る。

 俺は、戸がずり下がらないよう、工具箱を置いた。

 真穂がぎこちない笑顔で言う。

 「じゃ、じゃあ、クロエさん、ゴミ袋に靴とか入れて、取敢えずその辺に置いて下さい」

 「クロエ、『靴とか』は玄関の床にあって、ゴミ袋に入る大きさの物全部。『その辺』って言うのは、今日の場合、僕がさっき描いた円の中だよ。真穂ちゃん、クロエは曖昧な指示がわからないから、具体的に言ってあげて」

 「はい、ご主人様」

 「は、はい、ゴメンナサイ」

 ノリ兄ちゃんが、円の前に立って杖で示す。

 俺は、クロエさんの頭がちょっと心配になった。


 普通、わかるだろう。


 「あ、ちょっと待って。ゴム手袋持ってきます」

 真穂がヘドロや雑妖をものともせず、家の奥に消えた。


 視えないって、幸せな事だったんだな。


 俺は、さっき灰を入れたゴミ袋の残りをクロエさんに手渡した。

 「手伝うよ」

 ツネ兄ちゃんが差し出した手に、黒いゴミ袋を渡す。


 視えてるのに手伝ってくれる。何てイイ人なんだろう。


 三枝さんは玄関前で雑妖を斬りまくり、双羽さんは水を操って、外した戸を洗ってくれている。埃と煤と泥と(カビ)が取れ、透明感を取り戻した。

 すり硝子の向こうがうっすらシルエット状に見える。

 真穂がコンビニ袋を抱えて戻ってきた。新品のマスクとゴム手袋を配る。

 「僕と三枝さんの分はいいよ」

 ノリ兄ちゃんは、直径が杖の長さくらいの円を描いて、その中に入った。三枝さんが外に控える。

 真穂はツネ兄ちゃん、双羽さん、クロエさんに渡し、残りをキレイになった戸の傍に置いた。

 「じゃ、みんな頑張ってね」

 ノリ兄ちゃんが、ひらひら手を振る。

 魔法使いとは言え、体が弱い人にこんな重労働、させられる訳がない。


 つーか、この人、王族だよ。畏れ多くて頼めねーよ。ゴミ焼だけで充分過ぎる。

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【関連  「汚屋敷の跡取り
ゆうちゃん視点の話で「汚屋敷の兄妹」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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