036.玄関
「クロエ、お掃除の間だけ、双羽さんとケンちゃんと真穂ちゃんの指示に従って。優先順位は、双羽さんが一番上。あ、それから、三枝さんの通訳もして」
「かしこまりました。ご主人様」
クロエさんは琥珀色の瞳を輝かせ、優雅にお辞儀した。「ご主人様」って言うメイドが実在するとは思わなかった。
色々とぶっ飛び過ぎて、もうどこにポイントを置いて驚けばいいかわからない。
却って頭が冷えた。
「クロエ、玄関を開けなさい」
「はい、双羽隊長」
外国人二人が、日之本語で遣り取りしている。
何か変な感……いや、隊長って、何?
クロエさんは敷地に入り、元気よく玄関を全開にした。
ギチギチに詰まっていたヘドロと雑妖がどっと溢れる。
一瞬、クロエさんの姿が見えなくなった。
庭に汚染が広がり、嵩が減る。クロエさんは数歩退がって、手で体を払った。クロエさんにくっついた雑妖が、あっさり振り払われる。
魔法使い三人とツネ兄ちゃんは、何も言わなかった。でも、顔に「やっぱりな」って書いてある。
クロエさんに申し訳なさ過ぎて、掛ける言葉も見つからない。
双羽さんが水を流し、ヘドロと雑妖を一カ所に集める。
三枝さんがまとめて剣で斬った。斬っても斬っても、雑妖が溢れて来る。
玄関の奥は、ヘドロと雑妖が詰まっていて、物理的な状態が見えない。
「埒が開きませんね。矢張り、元を断たねば……」
双羽さんが眉間に皺を寄せる。
服をツンツン引っ張られた。真穂が小声で聞く。
「どうなってんの?」
「玄関開けたら、化け物がぎっしり居て、どばーってなった。ヘドロみたいな……」
「うわ……」
視えないながら、真穂も玄関に目を凝らした。