035.許諾
「さっきみたいに、お庭でゴミ焼きしてもいいですよね?」
「はい! 大変結構でございます!」
ノリ兄ちゃんに聞かれ、大笹消防団長は、背筋を伸ばして敬礼した。駐在さんと隣保長の大山さんが、俺と真穂に助けを求めるような目を向けた。
俺も知らない。
「えー……それでは、何かございましたら、何なりとおっしゃって下さい」
「辺鄙な場所ではありますが、精一杯、させて戴きます」
駐在さんと九斗山区長が最敬礼する。
ノリ兄ちゃんは気さくに「じゃ、また後で~」と、手をひらひら振る。
四人は首を傾げながら、去って行った。
「大掃除する前に屋敷神様にご挨拶しよう」
ツネ兄ちゃんが、蔵の脇に向かう。そっちを見ると、あたたかい光を感じた。
敷地の隅に小さな祠があった。蔵と塀の間は木々が生い茂り、午前中なのに暗い。石造りの祠は木の格子戸が閉まっていた。
お供えの白い皿には何もない。
多分、さっき双羽さんがゴミとか洗い流してくれたんだろう。
格子戸の奥に小さな光が視えた。
ツネ兄ちゃんがしゃがんで手を合わせる。何を祈ったのか、祠の光が明るくなった。
ツネ兄ちゃんが終わると、ノリ兄ちゃんも同じように拝んだ。光が更に強くなる。
場所が狭いから、一人ずつ交代で拝む。
俺は、今まで放置していた事を謝り、今から大掃除するから見守って下さい、と祈った。
ツネ兄ちゃんに共通語で説明され、最後に三枝さんが祈りを捧げる。
祠の光は一人終わる毎に強くなり、今は眩しいくらいだ。
肉眼には見えないのか、影はできない。なのに、枝葉の闇がこんなに明るいのが、不思議だった。
「屋敷神様がね、今まで悪い物を外に出さないだけで精一杯だったって言ってたよ」
「穢れがなくなれば、元の力を取り戻せるかも知れないってさ」
ノリ兄ちゃんとツネ兄ちゃんが、俺と真穂に屋敷神様の言葉を伝える。
当たり前みたいに言うけど、二人とも霊能者か何かなのか?
借り物の霊視力では、神様の言葉は聞こえなかった。
でも、何となく気持ちはわかった気がする。
「頑張ります」
俺は祠に深く頭を垂れた。




