034.灰燼
ノリ兄ちゃんはマイペースに呪文を唱え、杖の石突きで地面をトントンと打った。
円柱の中で、白い炎が揺らめく。
皆既日食観察用の眼鏡越しに見た太陽を思い出した。
「灰を入れる袋をご用意下さい」
双羽さんに言われ、真穂が弾かれたように母屋へ走る。
障害物を避けなくてよくなり、三秒で玄関に着いた。戸を細く開け、素早く閉める。
すぐにゴミ袋の束を抱えて戻った。
「袋の口を開いて持って下さい」
俺と真穂は、双羽さんの言う通り、ひとつのゴミ袋の口を広げて待った。
ノリ兄ちゃんが何か言うと、円柱が消えた。
跡には、真っ白な灰が積もっている。あの大量のガラクタとヘドロと雑妖は消えていた。
金属とか結構あったのに、灰しかない。
全部焼いたにしても、灰が少ない。
双羽さんの指示で、水が地に降りた。
四人が驚いて何か叫ぶ。
双羽さんはそれに構わず、水を這わせた。
ノリ兄ちゃんが杖で地面を擦って、円の一部を消す。水はその隙間から入り、灰を溶かして出て来た。
灰色の水が大蛇のように伸びて、ゴミ袋に頭を突っ込む。水の先から灰が吐き出され、ゴミ袋はすぐ満タンになった。
農道から見えているのかと思うタイミングで、水が引っ込む。
俺が袋の口を括り、真穂が次の袋を広げる。
庭を埋め尽くしていたガラクタとヘドロと雑妖は、45Lのゴミ袋六杯分の灰になった。
本気の産廃ばっかりで、どうやって処分しようかと思っていた物が、三十分足らずで片付いた。
ノリ兄ちゃんと三枝さんが農道に戻ってきた。
双羽さん、三枝さん、クロエさんがノリ兄ちゃんの傍に控える。
「何度も同じ説明するの面倒だから、詳しい話はまた後でお願いします。今の僕は、山端家の外孫という事で、護衛は、この二人が居ますから、大丈夫ですよ」
小さな女の子みたいに可愛い声で、口調も丁寧なのに、有無を言わせない何かがあった。