031.魔法
「あ、あの……それ、ひょっとして、魔法、ですか?」
「そうだよ。あれっ? 聞いてないの?」
真穂の自信なさげな質問にあっさり答え、ノリ兄ちゃんは首を傾げた。
聞いてない! 聞いてないよ!
従兄が魔法使いとか、聞いてないよ!
「巴の家系で魔法使いなのは、僕だけだよ」
「その説明も後でな。さっさと掃除しよう」
ツネ兄ちゃんが言うと、雪の塊が動き出した。
双羽さんが、雪の塊から目を離さず言う。
「私と三枝も魔法使いです。庭の不用品はどれですか? 除雪のついでに移動させます」
「不用品……ゴメンナサイ。物干し台以外、全部ゴミでゴメンナサイ」
「えッ? 全部?」
真穂が頭を下げると、ツネ兄ちゃんとノリ兄ちゃんの声が重なった。双羽さんも驚いた顔をしている。
「何か、ホント、すんません……」
俺も申し訳なさで居たたまれなくなり、深々と頭を下げた。
「二人が生まれる前からこうだったよ。どうせお祖父ちゃんだろ? 謝らなくていいよ」
ツネ兄ちゃんが吐き捨てるように言った。
ツネ兄ちゃんは、瑞穂伯母さんが亡くなってから、一度も来ていない。
そんな昔からこうなのか。
俺達の母さんが居た頃は、もう少しマシだったような覚えがある。
気を取り直した双羽さんが、知らない言語で何か言う。
魔法の呪文なんだろう。
誰かに命令するような口調で何か言うと、雪の塊が一瞬で解け、水が庭のガラクタを押し流した。
倉庫と蔵の屋根から、雪が全て滑り落ちる。
古タイヤも壊れ農機も何もかもが、魔法の洪水に呑まれる。
庭の雪と混ざり、嵩を増して渦を巻く。俺達が出したゴミ袋も、破れマルチや割れ植木鉢も、全部が一カ所に集められ、庭が広くなった。
巨大な洗濯機のような渦が築いたガラクタの山は、二階建ての屋根より高い。
ヘドロと雑妖も一緒に集められた。でも、すぐにどろりと広がって、庭が肉眼では見えないヘドロに沈む。
母屋の前で物干し台だけが、ポツンと立っている。