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汚屋敷の兄妹  作者: 髙津 央
第二章 賢治の十二月二十五日
30/130

030.貸与

 声も出ない俺達に、ノリ兄ちゃんが重ねて聞く。

 答えられずにいると、ツネ兄ちゃんが鋭く言った。

 「宗教(むねのり)、それはどんな術なんだ? 持続時間は? 副作用はないのか?」

 「副作用? ないよ。効果は七日間。借りた眼は閉じられないけど」

 「いや、それ、眼球乾くだろ」

 「肉眼は貸さないから、閉じられるよ。僕がやると三界の眼(さんかいのめ)で、寝ててもオバケとか穢れとか視えたままで……」

 「怖くて寝らんないだろうが! お試しで一分だけとかないのか?」

 「んー……手を繋いでる間だけって言うのもあるけど、それじゃ、お掃除できないよ?」

 「こんなの一瞬視えれば充分だ!」


 駄目なテレビショッピングみたいなノリだけど、大体の事はわかった。

 「じゃあ、あの、手を繋いで視る方で、お願いします」

 俺が手を出すと、ノリ兄ちゃんは、双羽(ふたば)さんと同じ雰囲気の言語で何か言った。

 誰かに話し掛ける感じではない。詩やお経を詠じるような口調だ。

 ノリ兄ちゃんは言い終えると、俺の手を握った。

 「おうち視て」

 言われて、顔を向ける。


 俺は、吸い込んだ息が喉に詰まった。

 さっきツネ兄ちゃんが言った通りの状態だ。

 ヘドロのような物が、家の形に盛り上がっている。

 庭はヘドロのプール。

 その中を種種雑多な化け物が蠢いている。同じ形は一匹も居ない。

 虫や動植物、人間の断片を継接(つぎは)ぎしたみたいな、よくわからないモノ達。

 人っぽい形でも、異様に手が細長かったりして、一目で人外だとわかる。器物に虫や動物を足したみたいなのも居る。


 「私も、視せてもらっていいですか?」

 「視るな」

 俺は吐き気を堪え、それだけ言った。

 怖いのに目が離せない。

 無意識に力が入ってしまったらしい。ノリ兄ちゃんが痛そうに「離して」と手を引いた。手が離れると、タダのゴミ屋敷に戻った。


 「真穂はオバケとか苦手だろ。やめとけ」

 「オバケが居るの?」

 「ツネ兄ちゃんの言う通りだった」

 真穂は気味悪そうに家を見て、一歩退いた。


 俺は少し考えて、思い切って言った。

 「俺に一週間、視力を貸して下さい」

 「えッ?」

 複数の声が重なった。

 ノリ兄ちゃんは気にせず、コートの内ポケットからボールペンを出して、俺の右掌に複雑な模様を描いた。

 くすぐったいが、動かさないように堪える。


 「おい、宗教(むねのり)……」

 「本人がいいって言ってるんだし、いいじゃないか」

 「はい。あの、ちゃんと見届けたいんで」

 俺が、ノリ兄ちゃんとツネ兄ちゃんを交互に見て言うと、ツネ兄ちゃんは溜め息を吐いて横を向いた。

 ノリ兄ちゃんは俺の右手を握り、さっきと同じ響きの言葉で、違う事を言った。言い終えてすぐ、手を離す。

 さっきのアレが視えた。

 山端家の間取図-庭-初期段階

 挿絵(By みてみん)

 上図は、くどいようだが、アリの巣の模式図ではなく、山端家の敷地概略図。

 現在は雪で埋もれているが、雪がなければこのザマ。

 この状態の上に、雑多な妖魔や霊的な穢れがぎっしり。

 物理的にはゴミの山、霊的な穢れでヘドロのプールを形成している。

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【関連  「汚屋敷の跡取り
ゆうちゃん視点の話で「汚屋敷の兄妹」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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