029.視力
知らない人が五人。内、三人は明らかに外国人。
思ってたのと違う人が、自発的に手伝いを申し出てくれた。
ありがたいけど、よくわからん状況。
共通語会話には自信あるけど、何と言えばいいかわからない。
俺と真穂は、途方に暮れて立ち尽くした。
「まずは……雪を除ければ宜しいですね?」
「は、はいッ!」
双羽さんに聞かれ、俺と真穂は思わず背筋を伸ばして、駐在さんのように敬礼した。
双羽さんはおバカな兄妹に構わず、初めて耳にする響きの言葉で何か言いながら、右手を横に伸ばした。
敷地の前で手を上げ、バックオーライの動きをする。
「あ、そうだ。二人とも、おうちが今、どんな状態かちゃんと視てみる?」
ノリ兄ちゃんの質問の意図がわからない。
俺と真穂は首を傾げた。
ツネ兄ちゃんが、眼鏡を押し上げて呟く。
「視えてたら、こんな状態を放置できる訳ないもんな……」
「はい。あの、ゴメンナサイ。ウチはどっからどう見ても最悪なゴミ屋敷です。それはよくわかってます。でも、好きで放置してるんじゃないんです」
真穂が深々と頭を下げる。
ノリ兄ちゃんは、真穂に顔を上げさせ、説明を始めた。
「あ、違うの。そう言う意味で言ったんじゃないの。あのね……」
魔法文明国では、所謂「霊感」がある人が普通だ。物質と霊質の両方が視えて当たり前。
物質しか見えない人は「半視力」と呼ばれ、保護の対象になる。
日之本帝国などの科学文明国では、半視力が普通で、霊視力を持つ人は少ない。
「半視力の人用に、視力を一時的に貸す術があるんだけど、視てみる?」
「……えっと……何が視えるようになるんでしょう?」
話が見えない。
俺は恐る恐る手を挙げて、ノリ兄ちゃんに質問した。
「いっぱい居るよ」
何がッ?
「宗教、それじゃわかんないだろ。……死骸やガラクタから湧く奴とか、自然に居る奴とか、とにかく、雑多な妖魔が庭にギッチギチに詰まってて、足の踏み場もない。屋根にもぎっしり乗ってるし、壁にも貼り付いてて、家が物理的に見えないんだ」
ツネ兄ちゃんが、淡々と説明してくれた。
俺と真穂は振り向いて、別な意味で驚いた。
雪の塊が宙に浮いている。
屋根の雪が全くない。
勿論、妖魔は視えない。