027.客人
ツネ兄ちゃんは、マー君より少し声が高い。テノールとバリトンくらいの差がある。声と眼鏡で見分けがつく。
俺は少しホッとした。
「雪下ろし、大変そうだな。でも、今、疲れてるから、金もらっても手伝えないぞ」
金の話キターッ!
でも、マー君の疲れが取れたら、手伝ってくれるって事だよな。
……有料で。
「本家、泊まれそう? 全部でえーっと……六人なんだけど」
「ゴメンナサイ。無理です」
「今、大掃除してるから、バタバタしてるし……」
真穂が半泣きで頭を下げる。
俺の言い訳がましい説明に、マー君が母屋を見て囁いた。
「祖父ちゃんに怒られないか?」
「あ、今、ジジイとオヤジは留守なんで、今の内に」
「祖母ちゃんは?」
「入院してます。……あれっ? 聞いてない?」
「うん。全然。いつ入院したんだ?」
「今月初め。転んで骨折して、介護できないから、せめて最低限だけでもっ……て」
助手席から、中学生くらいの子が降りて来た。マー君の縮小コピー。
みんな同じ顔で、誰の子かさっぱりわからない。
続いて後部席から、黒髪の大男が降りて来た。俺達に背を向けて、次の人を支えて降ろす。
「大掃除するの? お手伝いしようか? ゴミ焼きとか」
大男に支えられて降りた人は、多分、ノリ兄ちゃん……の筈だけど、声が女の子みたいだし、髪も長い三つ編みだ。
右手に長い杖を持っている。杖の先には大人の拳くらいの黒山羊の頭が付いていた。
どこにポイントを置いて驚けばいいかわからず、固まっていると、性別不明のその人は、自己紹介した。
「初めまして。僕、宗教。声変わりしてないけど、男だよ。クロエ、出ておいで」
後部席に声を掛けると、紙風船が割れたような音に続いて、黒髪の女性が降りて来た。
二十代前半くらいで、絵に描いたようなメイド姿だ。コスプレのなんちゃってメイドではなく、外国の古い映画に出て来るみたいな本格的なメイドだった。