026.従兄
ここから賢治視点。
深夜に雲が出て、夜明け前まで大雪が降った。
真穂と二人、うんざりしながら、実家の雪下ろしをする。
大学のある商都では、滅多に雪が降らない。水道の凍結対策やタイヤチェーンすら不要だった。
四年ぶりの雪下ろしで、筋肉痛になったが、真穂一人に苦労させる訳にはいかない。
覚られないよう、黙々と雪を下ろす。
「あれっ? 誰だろ?」
真穂が手を止めて町道の方を見た。
ここは閉鎖的な過疎地で、家族構成から所有する車、昨日の晩ご飯までみんな知っている。
真穂は車を不審げに注視していた。
雪が積もった田畑の間にポツポツ家があるだけで、隠れる所はどこにもない。
一昨日の俺も、村の人にこんな風に見られてたんだろうな。
車は二台。
どちらが「不審車」かわからない。前をワンボックス、後ろをセダンが走っている。車間距離は五台分。セダンはスノータイヤを履いてるっぽい。ワンボックスはノーマルにチェーンを巻いていた。
ワンボックスが農道に入り、近付いてくる。
真穂が、助けを求めるような目で俺を見た。
俺は車から目を離さず、小さく頷いた。
都会なら、知らない車が走っていても、当たり前。知っている車の方が少ない。知らない車に怯えた目をする妹が、不憫だ。
ワンボックスがウチの前で停まった。
車間距離を保ち、セダンもウチの畑の前に停まる。
「着きました。もうここで結構です。ありがとうございました」
ワンボックスの運転席を開け、男が言うと、セダンはハザードを点滅させ、後退した。町道に戻って方向転換し、走り去る。
稲藁色の髪の男は、セダンが見えなくなるまで見送って、ウチの敷地に入ってきた。
「ケンちゃん久し振りー。そっちは真穂ちゃん? 二人とも大きくなったなー」
俺は真穂に頷いて見せ、屋根から降りた。そのまま勢いに任せて駆け寄る。
助っ人キターッ!
「マー君! 久し振りー。元気だった?」
「あぁ、元気元気。ケンちゃん達も元気そうでよかった」
後部扉が開き、マー君と同じ顔に眼鏡を掛けた人が降りて来た。ツネ兄ちゃんか、ノリ兄ちゃんだ。
どっちかわからない。
眼鏡の人は敷地には入らず、農道から自己紹介した。
「初めまして。従兄の経済です。この名前、言い難いし、好きに呼んでくれていいよ」
屋根から降りて来た真穂が、嬉しそうに挨拶する。
「えっと、ツネ兄ちゃんって呼んでもいいですか? あ、私、真穂です。初めまして」
「それでいいよ」
「真穂の兄の賢治です」
俺も農道に出て名乗った。