002.携帯
私は二階の自分の部屋に戻って、ケータイで真知子叔母さんに助けを求めた。
声は一階まで聞こえないと思うけど、念の為、メール。
このケータイは、米治叔父さんが契約して貸してくれた物だ。
通話料も出してくれてるから、申し訳なくて緊急連絡以外には、使った事がない。
お祖父ちゃんとお父さんは、私の事が嫌いで、高校に行く事すら反対していた。
歌道寺の住職さん達が、「今時は高校くらい出してやるもんだ。それとも、山端家は娘を進学させてやれんくらい、落ちぶれてしまったのか?」って言ってくれたお蔭で、進学させてもらえた。
女に学問なんかいらんのにって、凄くイヤそうに恩着せがましく言われたけど、そんなにイヤなら、私をお母さんと一緒に住ませてくれればいいのに。
それはさせてくれない。
ケータイも、「女のお前に掛ける金なんかない。無駄だ」って断られた。
米治叔父さんに、バイト代でケータイ代を返そうとしたら、「えぇが、えぇが」って受け取って貰えなかった。
お父さんの弟なのに、何でこんなに違うんだろう。
真知子叔母さんから、返信が来た。
件名に用件が書いてあって、本文は空だった。
Re:旦那にお酒もつて行かせるからもうちよつと待つて
偶然のフリをして、病院に連れて行ってくれる。
泣きそうになりながら、お礼を返信して、部屋を出た。
自分の部屋には、最低限の物しか、置いていない。
毎日、掃除して換気して、ここだけ別の家みたい。
一階の廊下を歩いたスリッパは、部屋の前で脱ぐ。
二階の廊下は、本棚とカラーボックスで埋まっている。
廊下の両側に棚があって、体を横にしないと通れない。本棚やカラーボックスの上にも段ボールが積み上がっていて、地震が起きたら絶対ヤバイ。
二階は多分、二部屋が開かずの間状態。
大きな本棚で入口が塞がってる。私の部屋とお兄ちゃんの部屋、ゆうちゃんの部屋の入口だけが開いている。
床だけは、物を置かないようにしている。
古新聞、古雑誌は束ねて、学校のリサイクル箱に持って行く。「学校で要るから」と言えば、流石に反対されなかった。
階段も古新聞、古雑誌の束が、各段に私の身長と同じくらいまで詰み重なって、埃を被っている。
壊れた家電、壊れた石油ストーブとか、ガラクタも置いてあって、その上にも中身が詰まった段ボールが詰んである。
中身は知らない。
倒したら大惨事なので、階段を通る時は、慎重に慎重を重ねて、凄く神経を使う。
やっとの思いで階段を降りた。
ミイラ取りがミイラにならないよう、慎重に近付く。
お祖母ちゃんの冷えた肩を膝掛けとハーフケットで包んで、耳元でこっそり伝えた。
「もうすぐ、米治叔父さん、来てくれるから」
「ごめんね……真穂ちゃん、ごめんねぇ……」
お祖母ちゃんは、泣きながら手を合わせて、私を拝んだ。
私は何も言えなくなって、お祖母ちゃんを抱きしめて肩をさすった。