019.便所
脱衣所の床の分だけで、米治叔父さんの軽トラはいっぱいになった。過積載っぽいけど、上からブルーシートを掛けて固定する。
「じゃあ、すみません。お願いします」
「ケンちゃん達が謝るこっちゃねぇ。気にすんな」
米治叔父さんは軽く言って、クリーンセンターに向かった。
私とお兄ちゃんは、ゴム手袋、レインコート、新品のマスクを装備して、土足で突入。
バスマットで床の埃を拭いて、ゴミ袋に入れた。積み重なっていた五枚を使い切っても、まだ床は汚い。
最下層の一枚は、まだ動かせなかった。
湿気でこびりついた埃や糞に黴が生えて、クッションフロアに根を下ろしていた。
相変わらず、過剰在庫の段ボール壁はあるし、中身の残ったボトルもいっぱいある。
床も汚い。
でも、足の踏み場はできた。
松葉杖でも何とか通れると思う。
「ここからは手分けしよう。俺、トイレを片付けるから、真穂は洗面台を頼む」
「うん、わかった」
トイレは、手前が手洗い場と男性用小便器。奥が洋式トイレ。手前と奥は木の壁で仕切られている。
洋式トイレのドアは、何十年も前の古いカレンダーが、釘に掛かったままになっている。お祖父ちゃんが月めくりの十二月分を外さずに、上から新年のを掛けるから。
お父さんが煙草を吸うから、壁も天井も窓もカレンダーも、ヤニが染みついて茶色い。
個室内の小さいカラーボックスには在庫ぎっしりで、その上にもいっぱい物が乗っている。吊り戸棚にもトイレットペーパーとかの在庫がぎっしり。
私は手が届かないから、ここの物をとった事がない。
床にはトイレットペーパーの芯と、洗剤や芳香剤の空容器が積み上がっている。
手前のスペースもほぼ同じ。
こっちは洗剤と芳香剤とトイレットペーパーの在庫の段ボールも積み上がっていた。細い通路を爪先立ちになって通っている。
タオルは雑巾同然。
何故かお祖父ちゃんは、毎年お中元でタオルを貰うのに、新品に替えさせてくれない。
破れるまで使わなければ、怒られる。
破れたのを捨てても、怒られる。
私は、そんなトイレをお兄ちゃんに任せて、脱衣所の洗面台と向き合った。