018.廃棄
とにかく、スペースを空ける為にひたすら、ゴミ袋に空ボトルを詰めた。
多分、全部プラ容器だ。
シャンプー、リンス、コンディショナー、ボディーソープ、お風呂の床用洗剤、浴槽用洗剤、ガラスクリーナー、排水溝用洗剤、トイレ用洗剤、洗濯用液体洗剤、柔軟剤、ヘアトニック、化粧水、うがい薬。それらの空ボトルが、脱衣所の床に林立している。
お祖父ちゃんが、「瓶は後で使うから捨てるな」って捨てさせてくれないから。
中身が入ったままの使いさしも多い。
箱買いの段ボールは未開封のまま、天井近くまで積み上がっている。
バスマットは、何枚も重なっている。
最下層のマットの隅に段ボールの壁が乗っていて、びくともしない。それが黴て腐って気持ち悪いから、何枚も重ねて安全地帯を作っている。上のマットに黴が移ったら、新しいのを買って来る。
古いのは小さく切って、ビニール袋に入れて、少しずつ学校の近所のゴミ箱に捨ててる。
ホントはいけない事だって知ってるけど、家のゴミ袋に入れたら怒られるから。
足の踏み場もないレベルでボトル類だらけの床は、当然、掃除できない。
風呂場と洗濯機への道が、細く通っているだけだ。
段ボールの傍は、ボトルの上にボトルが乗っている。
積み上がったボトルとボトルの間には、灰色の綿埃や髪の毛、鼠や虫の糞、虫の死骸が、分厚く積もっている。ボトルの隙間を埋める様は、過剰包装の梱包材みたい。ボトルの肩と頭には、埃が盛り上がっている。
こんな汚いの、分別したってリサイクルできっこないから、埃に包まれたボトルをそのままゴミ袋に入れる。
ゴミ袋が満タンになる度に庭へ持って行く。
満タンのゴミ袋を両手に持って、棚や段ボールで狭い廊下を体を横にして通り抜ける。
外の空気を吸って、またゴミに埋もれた玄関と廊下を通って、ゴミだらけの脱衣所に戻る。
二人とも無言。
お兄ちゃんと二人で、何往復しただろう。
脱衣所の床から、空ボトルがなくなった。
ゴミ袋を置きに出ると、コーちゃんが黒い山の前で呆然としていた。
「コーちゃん、どうしたの?」
「スッゲー……………………」
「でも、まだいっぱいあるから……」
「でも、この分だけ、キレイになったんだよな? 二人ともスゲー」
「危ないから、手伝わなくていいぞ」
「あ、違う。メシ。昼ご飯できたから、呼んで来いって言われたんだ」
ゴム手袋とレインコートを玄関脇の雪の上に置いて、マスクは捨てて分家に行った。
玄関に入る前になるべく埃を叩く。
手と顔を念入りに洗って、食卓へ。
とんかつ、千切りキャベツ、ごはん、ホウレン草の味噌汁。米と野菜は分家の自家製だ。
食事中、誰もゴミの話をしなかった。
キレイな場所で温かいご飯にありついて、人心地ついた。少しの作業なのに、意外と疲れていた事に気付く。
食器を片付けてから、コーちゃんが少し興奮気味にゴミ山の事を語った。
「そうか。じゃあ、俺が軽トラで持ってくげ」
「えっそんな悪いですよ」
「なぁに、俺にとっても実家だげ。クリーンセンター行ってる間、中の掃除、頼むげな」
お兄ちゃんが遠慮すると、米治叔父さんは笑って言った。