016.開始
十二月二十四日。
お兄ちゃんと私は、朝早く家に戻った。「普通にキレイな所」から帰ると、自分ちの汚さを改めて思い知らされる。
庭のガラクタは、雪に埋もれて見えない。
二人で屋根の雪降ろしをしていると、畑帰りの人達が話し掛けて来た。
「ケンちゃん、久し振りだな」
「お久し振りです」
みんな声が大きいから、屋根の上と農道のままでも充分、会話できる。
「すっかり大人になって。どうしたが? 急に」
「お祖母ちゃんが、大怪我したって聞いたんで」
「あぁ、災難だったげな。もちっと、まぁ、アレだ……その……頑張れよ」
近所の人達は、言葉を濁して帰って行った。悔しいけど、言いたい事はそれでよくわかってしまった。
雪降ろしで体が温まってほぐれた。二人でやると、いつもの倍以上も早く済んだ。
お兄ちゃんが玄関を開けて途方に暮れた。
「さて、どっから手ぇつけるかな……?」
「トイレとお風呂。重要度が高くて狭くて物が少ないから、早く片付くし、キレイになったらヤル気も出るよ」
私は、作戦が決まってから、ネットで調べた事を説明した。
掃除用具と洗剤も発掘してある。それに、そこはある程度、掃除を進めてあった。
ネットで掃除方法について、相談やアドバイスや情報交換する掲示板を見つけた。そこの過去ログを夢中で読み漁った。
家族がゴミやガラクタを捨てさせてくれない、ゴミを拾って家に溜める事で悩んでるのは、ウチだけじゃなかった。
同じ悩みを持つ仲間がいる。
何とか説得して掃除した人、家族の入院中にこっそり大掃除した人、コツコツ掃除を続けている内に、家族が影響されて、掃除するようになった人、業者を呼んだ人、家族が亡くなってから片付けた人……事情が違うから、方法も手段も違うけど、家をキレイに片付けられた人達の報告は、喜びに満ちていた。
永遠に片付かないなんて事はない。
どんなにゴミが山積みでも、ひとつずつ捨てていけば、いつか必ず片付く。
希望が、私にヤル気と力を与えてくれた。