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汚屋敷の兄妹  作者: 髙津 央
第一章 真穂の十二月
15/130

015.幸せ

 「ん? ケンちゃん、覚えてないが? あんな遊んでもろたに。従兄(いとこ)政治(まさはる)だ。瑞穂(みずほ)姉ちゃんとこの」

 「あッ! あのマー君!?」

 お兄ちゃんは、思い出したらしい。顔がパッと明るくなった。

 わからないのは、私だけだ。真知子叔母さんが教えてくれた。


 瑞穂伯母さんは、お父さんと米治叔父さんの姉で、高校卒業してすぐ、帝都に出て就職した。

 そのままあっちで結婚して、旦那さんの実家に住んでた。

 お兄ちゃんが生まれるずっと前に交通事故で亡くなった。

 従兄(いとこ)は三人。政治(まさはる)君、経済(つねずみ)君、宗教(むねのり)君。

 三男の宗教(むねのり)君は、体が弱くて長距離の移動に耐えられないから、一度も来た事がない。

 次男の経済(つねずみ)君は、瑞穂伯母さんの生前は来てたけど、亡くなってからは来なくなった。

 長男の政治君だけが、二十歳になるまで毎年、お正月に本家と分家に顔を出していた。

 「……お年玉目当てでな」

 米治叔父さんが苦笑した。でも、ちょっと嬉しそうな顔だ。


 政治君が来た最後の年の夏、私達のお母さんが入院して、そのまま離島の実家に帰った。当時、お兄ちゃんは小学三年生、私は幼稚園児だった。

 「今年は三人とも来るそうだげ、宗教(むねのり)君はともかく、どっちか一人くらい、手伝ってくれるだろ」

 どういう心境の変化か知らないけど、ずっと寄りつかなかった人達が、あんなゴミ屋敷の大掃除、手伝ってくれるんだろうか。

 何か、無理っぽい。

 私だったら、冬休みに親戚んちに遊びに行って、特殊清掃を頼まれたら、ゴメンナサイして帰る。

 お金貰っても無理。


 「ツネちゃんはわからんが、マーくんは、小遣いやれば手伝ってくれるげ、心配すんな」

 「えっ!?」

 お兄ちゃんと私の声が重なる。

 「いざとなったら、俺が金出すげ、心配すんな。なぁに、お年玉だ、お年玉」

 叔父さんはそう言って笑った。


 今日は自分の家には帰らず、コーちゃんと一緒にお兄ちゃんに共通語を教えて貰った。

 うっかり忘れるところだったけど、私も受験生だ。

 お兄ちゃんは、水都(すいと)市立外国語大学の四回生。旅行会社の内定が出てて、卒業したら添乗員になる予定。

 共通語は、世界の四割くらいの国の公用語だ。海外旅行の添乗員なら、必須なだけあって、お兄ちゃんの発音は完璧だった。


 勉強は捗ったし、ご飯は作って貰ったし、キレイなお風呂に入って、清潔なお布団で休ませて貰った。

 きっと、他所の家はこれが普通で、当たり前なんだろう。


 でも、私にとっては、凄く幸せな夜だった。

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【関連  「汚屋敷の跡取り
ゆうちゃん視点の話で「汚屋敷の兄妹」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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