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汚屋敷の兄妹  作者: 髙津 央
第一章 真穂の十二月
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013.空港

 空港に着く頃には、菜摘(なつみ)ちゃんも落ち着きを取り戻していた。二人であれこれ、思い出話に花を咲かせる。

 「真穂ちゃん、今まで有難う。……小学校の時、私、いじめられてたの、覚えてる?」

 「えっ? あぁ、うん。米田達のアレ、酷かったよね」

 「真穂ちゃんが助けてくれたから、私、学校に行けてたの。真穂ちゃんが居なかったら、私もお兄ちゃんみたいになってたかも知れない」


 菜摘ちゃんには、八歳上の兄が居る。

 いじめで対人恐怖症になって、不登校になった。

 高校には行かず、大検で高卒認定を受けて、通信制の大学に進学した。

 本来なら、高校に行ってる筈の期間は、カウンセリングに(ついえ)えてしまった。

 大学のスクーリングには出られるようになって、ちゃんと卒業できた。

 今は、家業の農業と林業を手伝ったり、ネットで翻訳の内職をしたりして、働いている。まだ人が大勢いる場所は苦手だけど、家族と一緒なら、外に出られるようになった。

 こんな家庭の事情がダダ漏れになるくらい、この歌道山町風鳴地区(うどうやまちょうかぜなきちく)は田舎だった。


 でも、ウチのゆうちゃんがひきこもった理由は、知らない。何をしてるのかも知らない。

 しょっちゅう、ゆうちゃん宛の密林(ミツリン)の箱が届くだけだ。何を通販してるのかも知らない。

 姿を見た事もないし、いつお風呂に入ったり、トイレに行ったりしてるのかも知らない。


 声は聞いた事あるけど、何を言ってるのかは、聞き取れなかった。

 何となく、ウチに住みついた妖怪か何かなんじゃないか、と言う気がしている。


 空港は、二つ隣の県にある。

 辺りはもう、すっかり夜だ。帰省ラッシュには、まだ早いから、人は少ない。

 予定通り、出発ゲートの前でアリバイ用の写真を撮って、菜摘ちゃんを見送った。

 格安ツアーだから、出発がこんな時間。エコノミークラス。宿も申し訳ないくらい安い。

 「真穂ちゃんは、私の一生の恩人だから、これ、恩返しだから、お金、後で返すよ」

 「いいって、いいって。お互い様だし、実行の労力だけでもハンパないし、おじさん達に車出してもらっちゃったし……」

 「えっ……でも……」

 「ぐずぐずしてっと遅れるげ、金の話ぁ帰ってからにせい」

 「じゃ、じゃあ、また後で!」

 菜摘ちゃんは、お父さんに背中を押されて、慌てて走って行った。


 私は、予約しておいたビジネスホテルまで送って貰って、菜摘ちゃんの両親と別れた。

 「何から何まで、すみません」

 「えぇが、えぇが。お互い様だげ、なっ」

 「有難うございます。有難うございます」

 部屋で一人になると、大きな溜め息が出た。


 もう、後戻りはできない。

※大検=大学入学資格検定(リアルの世界で言うところの「高等学校卒業程度認定試験」の旧称)

 まぁ、これは科学と魔法が混在するファンタジー世界の話なので、深く考えずに……

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【関連  「汚屋敷の跡取り
ゆうちゃん視点の話で「汚屋敷の兄妹」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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