126.設置-兄
十二畳の仏間には、何も置かない。
その隣の十二畳の座敷は、押入れに来客用座布団と折り畳み式の座卓だけを搬入。
応接間は洋間だ。空っぽのまま、カーテンだけ付けて、カーペットは敷かない。
玄関には新しい靴箱と傘立てを置いた。
靴箱は灯油の18Lポリタンク四つ分くらいの大きさで、履物は祖父母、オヤジの長靴各一足と下駄、つっかけ、草履のみ。
傘立てはポリタンクひとつ分くらいの大きさで、傘は三本だけだ。
応接間隣の五畳くらいの納戸は空になった。
階段下収納には、何も置いていない。
二階のゆうちゃん、俺、真穂の部屋も洋間なので放置。
和室六畳二間の内、一間は畳四枚が足りなかった。
「あー、すみません、ちょっと足りませんでしたね」
「いえいえ、こちらこそ恐れ入ります。寧ろ年末のお忙しい時期にこんな短期間で、こんなにたくさんご用意して戴けまして恐縮です。年内に間に合った分は、すぐにお支払できるのですが、年を跨ぐ分に関しましては、祖母と個別にご相談戴けませんか?」
マー君の言葉で畳屋さん達は、廊下の端に集まって相談を始めた。
すぐに話がまとまったらしく、その内一人がケータイでどこかに連絡して、こちらに戻ってきた。
「あの、夕方……七時か、八時頃でも宜しければ、支店の在庫をお持ちできるんですが……」
「そちらさえ差し支えなければ……こちらこそ、ご無理申し上げまして恐れ入ります」
畳屋さんの申し出にマー君が丁寧に対応した。
「では、ひとまず、搬入が終わった分の精算をお願いします。請求書と領収証はお持ち戴いてますか?」
畳屋さん達はマー君に言われて、車に取りに戻った。庭から畳屋さん達の驚く声が聞こえた。ノリ兄ちゃんの古畳を燃やす魔法だろう。
マー君は、三店に現金一括で数十万円ずつ支払っていた。
在庫があると言った店は「じゃ、すぐ戻りますんで!」と一番に出て行き、他の二店もホクホク顔で帰って行った。
「いや、マー君、太っ腹はいいけど、ボられてないか?」
ゆうちゃんがみみっちい事を言う。マー君はしれっと答えた。
「これ、ばあちゃんの金だし。ムチャ振り超特急料金上乗せしてるし、こんなもんだろ」
「はあ?」