123.決定-妹
「まぁでも、ニートが一瞬でも働く気になったのは、よかったよな」
お兄ちゃんが、ヨカッタ探しをした。
それくらいしか、いい事がない。
「優一君、本当に二度とここに戻らないくらい、必死な気持ちで帝都に出て、向こうで就職するのね? 本気で働く気になったのね? 頑張れるのね?」
叔母さんが、噛んで含めるような口調で聞く。
ゆうちゃんは、しどろもどろに答えた。
「いや……まあ、オヤジ達がクロだったら、の話だ。もし、あれが本当にオ……オレのかっ……母ちゃん……で、あいつらが犯人だったら、オレはこんなクソ田舎捨ててやる。あんな家、継いでやらん。他所で働いて他所者になってやる!」
「政治、経済、宗教……叔父さんからのお願いだ。一年……いや、半年でも三カ月でもいい。優一を下宿させてやって、帝都で就職活動させてやってくれないか? 家賃と食費は叔父さんが立替えるから……置いてやって下さい。この通り……」
米治叔父さんが、上座からマー君達の横に移動して、土下座した。
「叔父さん、顔をあげて下さい。米治叔父さんは、ゆうちゃんの親じゃなくて、藍ちゃんと紅治くんの親です。二人の学費に専念して下さい。米治叔父さんが犯人でないなら、そんな事しないで。ウチはそんな筋の通らないお金は要りませんし、変な方向の協力はしたくないし、責任も持てません」
ツネ兄ちゃんが淡々と拒否した。
そりゃそうだ。
「あーでも、ゆうちゃん本人と、じいちゃん、ばあちゃん、豊一叔父さんの誰かが、ちゃんと頭下げて金出すって言うんなら、相談には乗るよ」
「あの者は殿下に対して敵意を抱いております。不敬罪の償いも致しておりません。不穏な輩を殿下のお住まいに同居させる事は、承服致しかねます」
マー君が、ゆうちゃんの顔を見てニヤニヤ言う。
双羽さんは静かに怒っていた。
黒猫のクロエさんは、ぬいぐるみ遊びをやめてノリ兄ちゃんの顔色を伺っている。
「就職活動ってどんな事するの?」
ノリ兄ちゃんの質問に、社長のマー君が最近の就活事情も交えて答えた。
「ふーん。じゃあ、政治達がいいんなら、僕も別に構わないよ」
マー君の説明で、何か納得したらしいノリ兄ちゃんに、双羽さんが異議を唱える。
「だって、僕も大学とか病院とかで平日は留守だし、ゆうちゃんが一階の客間に泊まって、二階に来ないんならいいかなって……不敬罪とか、ずっとお母さんに、ゆうちゃんと似たような事言われてたし……どうせ僕の事なんて……面倒臭いから、もういいよ……」
「もし、家賃と食費の支払いが滞ったり、ゆうちゃんが暴言吐いたり部屋汚したりしたら、即、追い出して、自力で戻って来られない場所に捨ててくればいいよな」
マー君が冗談か本気かわからない事を言って、ツネ兄ちゃんに同意を求めた。
「まあ、まだ何も分かってないし、決まってないし……」
ツネ兄ちゃんは態度を保留した。
双羽さんは眉間に皺を寄せて黙っている。
「少なくとも、白黒付ける事は決まったな。じゃあ、歌道寺さんに相談して、祭壇のお骨を引き取って貰えるように、頼んで来よう」
米治叔父さんが話題を変えて座敷を出て行き、親族会議はお開きになった。
真穂視点、一旦終了。