122.意欲-妹
米治叔父さんが重々しく口を開く。
「俺は宗教君の魔法の力を借りてでも、あの三人に当時の事を確認した方がいいと思う」
冷めきった番茶をすすって口を湿らせ、言葉を続ける。
「何も知らないなら、誰の仕業かはわからんが、少なくとも家族の潔白は証明される。知ってて黙ってたなら、身内の恥だが近所の人達と、晴海さんの実家にも知らせて、晴海さんの名誉を回復せにゃならん。間男と駆け落ちしたふしだらな女扱いのままじゃ、浮かばれないからな」
ゆうちゃん以外の全員が頷いた。
「い、いや、ちょっと待て、クロだったら、オレら犯罪者の身内で、村八分だぞ!?」
ゆうちゃんが、慌てて反論する。
「構わん。本当の事だ」
「私は今県外の大学に行ってて、就職もあっちでするつもりだから」
「俺も別に無理して農業継がなくていいって言われてるし」
「ウチは会社組織にしてあるから、どうしてもダメになったら、田畑は他の社員さんに引き継いで、引っ越して他所に就職するから」
分家のみんなが、口々に言った。
「俺たちは、そもそもここに住んでないからなぁ、縁切りやすいぞ」
「……て言うか、当時三歳児だったし」
「僕はもうすぐあっち行っちゃうから」
巴家の三つ子は心底どうでもよさそう。当時生まれていない政晶君は、大人の言い分に頷いてる。
「俺、もう遠くの会社から内定出てて、研修の後、海外勤務って言われてるんだ」
「私も、昨日言った通りよ」
お兄ちゃんと私も、他人以上に冷たく言ってやった。
ゆうちゃんはじっと黙っていたけど、急に閃いた! みたいな顔をして得意げに言った。
「いや、オレ、帝都の巴家に引っ越してやって、マー君の会社で働いてやってもいい」
「は? 何言ってんの? ゆうちゃん、アタマ大丈夫か?」
マー君が半笑いで言った。
なんでそんな上から目線なの?
「優一! それが人に物を頼む態度か!?」
米治叔父さんが掌で座卓を叩いて立ちあがった。
みんなが叔父さんに注目したけど、すぐ、ゆうちゃんに視線を戻した。
「ゆうちゃん、あのさ、昨日の説明、聞いてたよね? ウチ、産業ロボットのメーカーなの。
工学部の院卒レベルの専門知識がないと正社員は無理なの。
経理はオレと、他社での経験も豊富な年配の社員で、二人とも簿記一級持ってるの。
事務はベテランのパートさんに来て貰ってるから、ゆうちゃんみたいな未経験者、要らないんだよ」
「いや、それは違うだろ」
「何が違うんだよ? それに、ゆうちゃん、掃除も皿洗いもできないじゃないか。ウチに泊まってタダ飯食って散らかし放題って、今度はウチをゴミ屋敷にする気かよ」
「いや、そんなの、メイドさん居るし……」
「あれはウチのメイドじゃなくて、宗教の下僕だ。それに自分の部屋は各自掃除するのが巴家のルールだ。宗教も体調がいい時は自分で掃除してる」
何もかも他人にやらせる気だったんだ。それであんな上から目線。何様のつもり?