120.霊視-妹
床の間を背にした上座に叔父さん、その対面にゆうちゃん。
廊下側の上座からノリ兄ちゃん、マー君、政晶君、ツネ兄ちゃん、叔母さん。
縁側サイドの上座からお兄ちゃん、私、藍ちゃん、コーちゃんの順で座った。
ゆうちゃんと叔母さんの間に三枝さんが立って、双羽さんと黒猫のクロエさんは、ノリ兄ちゃんの後ろに居る。黒猫は、猫用おもちゃを前足で抱えて猫キック。場の空気を気にせず、一人遊びしてる。
かわいい。ちょっと和んだ。
「いや、ムネノリ君の一声で令状もないのに警察動くって、ズルくねぇ?」
「死体を見つけたら、普通に一一〇番するでしょ」
ゆうちゃんが、沈黙に耐えられなくなったのか、余計な事を口走る。
藍ちゃんがぴしゃりと言った。
「あのね、僕、時々警視庁の人に頼まれて、行方不明者の捜索のお手伝いしてるの。空き家の床下とか、岸壁沿いの海底とかでよく見つかるんだよ。それでね、よく知ってる刑事さんに本家の事言ったら、ここの県警と駐在さんに連絡してくれたの」
ゆうちゃんが震える手で湯呑みを掴んで、すっかりぬるくなった番茶をすすった。
「いや、王族なのにわざわざ現場まで出向いて、警察犬の真似事してんの?」
「行かないよ。お家か大学か警察署で、写真とか遺留品とか見せて貰って、生きてるかどうか視るの。生きてなさそうなら、三界の眼の範囲を広げて周囲十キロ圏内を視るの。その人かどうかまではわかんないけど、範囲内に死体があればわかるよ」
都会って、そんなに怖い事がいっぱいあるんだ。でも、ここに居るよりずっとマシ。
「今回は、本家をちゃんと視る為に三界の眼を開いたから、床下に居るのが視えたの」
「いや…………あの……その、三界の眼ってのは、しっ知らない奴の事まで分かるのか? 写真とかなくて……その……おっオレの……」
ゆうちゃんの声が震える。湯呑みを持つ手も震えてる。
何を聞きたいかわかった。
「個人の識別まではできないよ。生きてるかどうかと、人と魔物の区別がつくだけだもん。あの人を『ゆうちゃんのお母さんだ』って言ったのは、経済だよ」
ゆうちゃんはツネ兄ちゃんを見た。
ツネ兄ちゃんが、蜜柑に伸ばした手を引っ込めて答える。
「子供の頃、階段で『ゆうちゃん』って呼んだり『ここから出して』って泣いてる女の人の声を何回も聞いたんだ。
母さんに言ったら『そんな声聞こえない! 気持ち悪い事言うんじゃないの!』って殴られたから、生きてない人の声なのかなって思って。
で、今回、宗教が『床下に人が埋まってる』って言うから、総合的に判断して、晴海叔母さんなのかもって……」
ツネ兄ちゃんの歯切れの悪い説明に、叔母さんが暗い顔で相槌を打つ。
「こう言っちゃ悪いんだけど、私もずっとあの家、気持ち悪いと思ってたのよ。
何回か手伝いに行った時に経済君と同じ場所で……同じ声……聞いてるし……
ゆうちゃんのお母さんが行方不明で……
あの場所であんな声……って事は、つまり……
そういう事なんだろうな……とは思ってたんだけど……
証拠も何もないから……誰にも言えなくて……」
「母ちゃん、それで俺らに本家に行くなって言ってたの?」
コーちゃんが目を丸くして、真知子叔母さんを見た。霊視力のある二人が同時に頷く。