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汚屋敷の兄妹  作者: 髙津 央
第五章 汚屋敷の兄妹

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119.発見-妹

 白バイが白黒のワンボックスを引率して戻って来た。

 「お待たせ致しまして恐れ入ります。殿下、お手数お掛け致します」

 「こちらこそ、お忙しい時期にお呼び立て致しまして恐縮です。恐らく時効が成立済みで立件できず、身元確認だけになるかと思いますが、宜しくお願いします」

 整列して敬礼する警察の人達に、ノリ兄ちゃんは大人の口調で言って丁寧にお辞儀した。

 ノリ兄ちゃんを先頭に双羽さん、三枝さん、警察の人達、身内がぞろぞろ続いた。


 縁側に沿って庭を歩いて、仏間と座敷の前を素通りして、閉まったままの引き戸の前で立ち止まる。

 「このお部屋です。室内の骨には触らないで下さい。多分、ここはその骨を閉じ込める為のお部屋です。それに触って何かあっても、僕には何もできませんから、気をつけて下さい。お部屋の入口に近い、床下に埋まっている人を出してあげて欲しいんです」

 ノリ兄ちゃんが、淡々と怖い事を説明する。


 「真穂ちゃん、藍ちゃん、あっち行っとこう」

 ツネ兄ちゃんが小声で呼ぶ。

 三人と叔母さんがそっと離れる。軽トラの前まで戻って、パトカーの傍に残るお巡りさんの所に行った。

 「私達も、ちょっとよくわからないんですけどね……」

 「子供の頃、幽霊の声が聞こえるって言ったら、ひっぱたかれましたし……」

 事情を聞かれて、叔母さんとツネ兄ちゃんが、歯切れの悪い説明をした。


 スコップの音が聞こえる。

 「出ました」

 お巡りさんの硬い声に続いて、鑑識のシャッター音が響いた。


 私達は、分家に引き揚げた。まだ本家では現場検証が続いてる。

 座敷には重苦しい沈黙が降りていた。


 お兄ちゃんと私は小さい頃、お母さんと三人で、お父さんの部屋の奥の部分に住んでた。

 開かずの間の隣。


 あれはきっと、ゆうちゃんのお母さん……

 自分で床下に埋まるなんて無理だから、誰かに埋められたとしか思えない。

 誰が犯人なんだろう。っていうか、あんな奥の部屋の下、他所の人は入り込めないし、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんもお父さんも、知らない筈ないよね?


 誰が犯人でも、家の誰かが人殺しなんだ……

 ホント、もうやだ、この家。


 ゆうちゃんのお母さんが居なくなったのが、えーっと……三十年くらい前?

 じゃあもう、時効は成立してちゃってるのかな?

 罪に問えるとか、問えないとかじゃなくて、悪いことしてそれを隠して、何にもなかったみたいに普通に生活してたのが、信じられない。


 あの縁側、いつからゴミで埋まってたんだろう?

 開かずの間の床下に埋めたってことは、三十年前は最低でも、あの部屋に出入りできるくらいの隙間は、あったのかなぁ。

 だとしたら、悪いことをなかったことにする為に、ゴミで埋め立てちゃったんだ……

 お父さんって、誰かが悪いことするのを窘めるとか、自分の罪を償うとか、そう言う発想自体なさそう。


 もしかしたら、ゆうちゃんが部屋から出て来なくなっちゃったのも、それが理由なのかもしれない。

 もしそうだとしたら、ちょっと可哀そうだけど……うん、無理。

 やっぱり、今まで色々、いっぱい言われた酷い事とか、お祖母ちゃんへの仕打ちとか、許せない。無理。


 もう、あんな家、二度と戻らない。


 お母さんは、私たちにも内緒でこっそりお金を積み立ててくれていた。

 私たちが積み立てを知ってしまったら、お父さんに暴力で聞き出されて、取り上げられるって思ったんだと思う。

 お母さんの独身時代の貯金は、そうやって全部、取られたって言ってたから。


 お母さんは若い頃、本州の街で働いてて、お父さんは出稼ぎに行ってて、三年くらい付き合って結婚したらしい。

 付き合ってた当時は、会えるのが冬の間だけの遠距離恋愛で、お父さんは会える時も会えない間も、とっても優しかったらしい。


 そんなお父さん、全然、想像もつかない。

 結婚した途端、変わってしまったらしい。


 お母さんが、こっちが本性だって気付いたのは、私が三歳くらいの頃だったって言ってた。

 それまでは、お母さんが殴られたりするのは、お母さんが至らないヨメだからで「ちゃんとすれば、元の優しいお父さんに戻ってくれる」って本気で思って、頑張ってたって言ってた。


 世の中には、頑張らなきゃいけないことと、頑張っちゃいけないことがある。


 そのことに気付くのに、何年も掛かってしまって、私たちに「しなくていい苦労をさせてごめんね」って、島へ行く度に泣いて謝られた。

 お母さんの体調や、私たちの学校の事とか、色々あって、なかなか離婚の手続きが進まなかった。

 でも、年が明けたら、それも一気に進む。

 お母さんがこの家と縁が切れたら、私たちも、安心してこの家を捨てられる。

 殺されて埋められるより、薄情者と罵られる方がずっとマシ。人殺しなんかに何を言われても、平気。


 あれがゆうちゃんのお母さんだって、確認できたら、その後、どうするのかな?

 ゆうちゃんのお母さんの親戚とまだ連絡取れるのかな?

 供養は勿論、お墓とか、どうするんだろう?

 そう言うの、ゆうちゃんにできるのかな?

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【関連  「汚屋敷の跡取り
ゆうちゃん視点の話で「汚屋敷の兄妹」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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