118.苗床-妹
「やあ、どうもどうも、おはようさん」
庭に白バイと分家の軽トラが停まって、駐在さんと米治叔父さんが降りてきた。
「朝早くから恐れ入ります」
「暮れのお忙しい時に申し訳ございません」
ノリ兄ちゃんとマー君が駐在さんに頭を下げた。
みんなも会釈して駐在さんを迎える。
「あー、いえいえ、とんでもない。殿下、そんな、こちらこそお世話になります。平和なとこで年末警戒って言っても何もありませんで」
駐在さんは騎士達に会釈し、ノリ兄ちゃんの前で直立不動の姿勢で敬礼した。
「で、ホトケさんは、どちらのお部屋でしょう?」
「仏間の二つ隣のお部屋なんですけど……鑑識の到着を待った方がいいかなって……」
「もうそろそろ着く頃かと思うんですが、なにぶん、この雪で……」
駐在さんが恐縮して、ノリ兄ちゃんにペコペコ頭を下げる。
「じゃあ、他の事をして待ってます。……ゆうちゃん、これ、燃やす前に視てくれる?」
ノリ兄ちゃんが、ゆうちゃんに近付く。黒猫が肩の上で器用にバランスを取る。
ゆうちゃんの右手を両手で包み込んで、小声で呪文を唱えた。
一瞬だけ視えるあれだ。
ゆうちゃんが情けない悲鳴を上げる。尻餅をついたまま何メートルもゴミ山から逃げた。
「ゆうちゃん、このお家はね、要らない物や、使われずに朽ちた物や、虫や動物の死体がいっぱい詰まってて、そう言うのを苗床に雑多な妖魔が涌いたり、他所から来て住みついたりしてたの」
ノリ兄ちゃんが淡々と説明する。
私とお兄ちゃんは、換気しに家に入った。手分けして雨戸を開けて回る。
ノリ兄ちゃんが、ゆうちゃんの最後のゴミを魔法で焼いてくれる。
昨日、あんなに酷い事言われたのに。ノリ兄ちゃんって凄く心が広い。
双羽さんが水の魔法で、ゆうちゃんの部屋を浄化してくれた。
私達は双羽さんと一緒に庭に出た。
駐在さんの無線が鳴る。ノリ兄ちゃんに敬礼して、白バイで農道を走って行った。
灰を軽トラに積みながら、お兄ちゃんが説明する。
「明日、畳屋さんが来る。おばあちゃんには分家に泊まってもらう。ジジイとオヤジは早ければ明日の夜、遅くとも元日の夕方までには戻ってくると思う」
「じいちゃん達は俺が呼び戻したんだ。元日に会いたいって言って」
マー君が付け加えた。