117.変身-妹
庭にゴミの山ができていた。
ノリ兄ちゃんが、倒れた本棚に話し掛ける。
「ゆうちゃん、そんな所で何してるの? 風邪引くよ?」
「えっ? ゆうちゃん、崩れたゴミの下敷きになってんの?」
「間抜けねー」
私と藍ちゃんは呆れてしまった。
「黒江、本棚を除けて、ゆうちゃんを出してあげて」
「かしこまりました。ご主人様」
今朝のクロエさんは、スーツをきっちり着こなした執事型の「黒江」さん。琥珀色の瞳は同じで、五十代くらいの落ちついた雰囲気が漂う燻し銀系の男前。声も低くて渋い。
本棚を除けて、ゆうちゃんのジャージの襟首を掴んで、片手で軽々と吊り下げた。
「黒江、ゆうちゃんを降ろしてあげて」
「かしこまりました。ご主人様」
襟首から手を放されたゆうちゃんは、そのまま地面に座り込んだ。
そりゃ、びっくりするよね。
「ゆうちゃんは自分のクズさ加減に気付いて、ゴミの仲間入りしてたのかもよ?」
「えーっ? 流石にそれはないんじゃないかなー?」
マー君がニヤニヤ笑って、ゆうちゃんを見降ろす。私は半笑いで否定した。
「ゆうちゃん、もうすぐ警察の人が来るから、立ち会い宜しくね」
ノリ兄ちゃんが言うと、ゆうちゃんは一瞬固まって、全然関係ない事を聞いた。
「いや、それより、メイドさんは?」
「クロエ? そこに居るけど? ゆうちゃん、疲れてるみたいだし、お掃除は後でいいよ」
「いや、掃除じゃなくって……」
「宗教、ゆうちゃんは説明の時、居なかったからわからないんだよ」
「あ、そっか」
ツネ兄ちゃんに言われて、気が付いたみたい。
「ゆうちゃん、黒江を見ててね。黒江、女中になって」
ポンッ
紙袋が割れたような音と同時に執事さんが消えて、メイドのクロエさんがそこに現れた。
「クロエは僕の下僕なの。お掃除とか頼む時は女中の形で、他の用事の時はさっきの形で、用事のない時と寝る時は、にゃんこの形にしてるの。ホントの形も見てみる?」
ノリ兄ちゃんに聞かれて、ゆうちゃんは反射的に頷いた。
「クロエ、元の形に戻って」
ポンッと言う音の後、例の猫っぽい悪魔が現れた。ホントは悪魔じゃなくて人工的に作られた魔法生物。
「クロ、おいで。だっこしよう」
ポンッ
巨大な悪魔が消える。黒猫がしっぽをピンと立てて、嬉しそうにノリ兄ちゃんに駆け寄った。
ノリ兄ちゃんが、飛びついた黒猫を抱き上げて、頭を撫でる。黒猫は琥珀色の目を細めて、ゴロゴロと喉を鳴らした。