115.一閃-兄
「いや、オレもホントの事だからって、ちょっとは言い過ぎた所があったかもな。喧嘩両成敗で水に流して許してやるから、ムネノリ君にも、機嫌直すように言っといてくれ。いや、ほら、オレ達みんな親戚なんだし、もうすぐ正月だし、水入らずで、仲良く年越ししよう。なっ」
明白な「反省してますのポーズ」だ。
口から雑妖を吐いてる上に、どこまでも上から目線。
何が喧嘩両成敗だ。ノリ兄ちゃんは何も悪くないだろうが。
座敷組は互いに顔を見合わせ、無言で視線を交わした。みんな、ゴミニートを見限ったって目をしている。
双羽さんが呪文を唱えて、冷たく言った。
「もう自由に動けますよ」
俺は、ICレコーダを停止して言った。
「ゆうちゃん、もう帰ったら?」
「は?」
「さっきの話、聞いてたよね? 三枝さん、ノリ兄ちゃんを、我が子同然に思ってるって……」
「誰かが、三枝さんにさっきの話を翻訳したら、どうなるだろうなって事だよ」マー君がニヤニヤ笑いながら続ける。「宗教の魔法なら一瞬で灰にできるしなぁ」
真穂が、お盆代わりにバットに食器を載せて、座敷を出た。
ツネ兄ちゃんが追加する。
「クロエも、さっきの宗教とゆうちゃんのやり取りを聞いてて、凄く怒ってたよ。宗教が、人間への攻撃を禁止する命令を出してなかったら、クロエにも何されるか……」
「えっ……いや、ちょっ…………」
焦るゴミニートに、マー君が本家の方角を指差して言う。
「ゆうちゃん、本家の長男なのが自慢なんだろ? 分家に長居してないで帰れば?」
「自宅に戻って下さい。ぐずぐずするなら……」
双羽さんが光の剣を一振りすると、ゴミの眼前に身長サイズの氷柱が何本も現れた。
ゴミニートが、靴下裸足で庭を走り抜け、玄関に回る。靴を履いて、除雪された道を全力で逃げ帰った。
光の剣が一閃し、庭のヘドロと雑妖を消し去った。
座敷の穢れも一振りで消える。
ゆうちゃんの思いなんて、所詮こんなもんなんだ。
賢治視点、一旦終了。