114.正論-兄
俺はポケットからICレコーダを出して見せた。
「あの、双羽さん、これでさっきからずっと会話を記録してあるんで、証拠がバッチリ残ってるんですけど、ゆうちゃんってもう、不敬罪でこの国の警察に突き出しませんか?」
「この国の司法に委ねるか否か後程、殿下のご意向を確認致します」
「いや、身内売るとか、どんだけ根性腐ってんだよ? こんなド田舎で警察沙汰になんかなったら、身内みんなここに住めなくなるんだぞ? わかってんのかよ!?」
ゴミニートが必死に保身する。
純白の新雪がヘドロで濁り、雑妖が我が物顔で走り回る。
身内は無言でゴミを睨んだ。
「殿下は、ご自身が非常に強いお力をお持ちだと言う事をご存じだからこそ、何もおっしゃらなかったのです」
「は? いや、今、そんなの聞いて…………」
寒いからか、双羽さんに睨まれたからか、ゴミニートは震えあがって口を閉じた。
「もし、殿下が貴方と同じ暴言を吐いたなら、貴方は今頃、生きてはいませんでした」
「は? そんなの命令ひとつであんた達がオレを殺すからだろ?」
双羽さんは心底、残念そうな顔で溜息を吐いた。
「違います。殿下はその魔力によって直接、命を奪う事ができるのです。
単純で強力な思いを口に出せば、場合によっては実現してしまいます。
我々近衛騎士は、王族を警護しますが、同時に、王族が魔力を暴走させないよう、監視する役割も担っています」
「さっき宗教が売り言葉に買い言葉で『ゆうちゃんなんか死んじゃえ』とか言ってたら、ゆうちゃん、宗教に魂抜かれてたって事だ」
マー君が卓上コンロの火を消して言った。
米治叔父さんが土鍋に蓋をする。
納得いかない顔のゴミの為に、双羽さんが魔法の仕組みを簡潔に説明してくれた。
「ゆうちゃん、ずっと口応えばっかりで、全然反省してないね」
真穂が、縁側で腕組みして言った。
米治叔父さんが立ちあがる。
マー君、ツネ兄ちゃん、俺も立ち上がった。
座ってるのはゴミニートだけだ。
「殿下は強大なお力をお持ちだからこそ、ご自身が不当に貶められても、無闇にそのお力を振るわず、自制なさったのです」
「優一、自分で言ってて情けなくならないのか? お前、さっきから暴言と妄言を吐いて、筋の通らない無茶苦茶な言い訳で自分を正当化してるだけじゃないか。
何で現実を直視しようとしないんだ? 自分の姿がちゃんと見えていたら……現状を正しく認識してたら、さっきみたいな事は一言も言えない筈だぞ」
「ゆうちゃん、他人を貶めても自分の立場が下がるだけだよ。王族の宗教を泣かせて、勝った気でいるのかも知れないけど、そんな事ないから」
「宗教に訴えられたら最悪、外交問題だぞ? 小国とは言え外国と揉めるくらいなら、この国の政府は、ゆうちゃん一人を見捨てる方を選ぶと思うぞ?」
双羽さん、叔父さん、ツネ兄ちゃん、マー君がゴミニートを諭したり、正したり、見捨てたりした。