112.嘲笑-兄
ツネ兄ちゃんが深刻な顔で説明を始めた。
「乳幼児の胃って縦型で食べ物を貯め難いから、ちょっとした刺激ですぐ吐いてしまう。小さい子が泣き過ぎて吐いて、嘔吐物で窒息死って、よくある事故なんだよ」
「いや……デヒャヒャヒャヒャ……み、三十路でそれはフヘヘねーってフヒャヒャ……」
叔父さんが食卓を拳で叩いた。
外まで響き渡る音に驚いたのか、ゴミニートの下卑た笑いが止まる。
「優一! お前は人の話もまともに聞けないのか! ……大人でも、病人や高齢者、酩酊者が嘔吐物で窒息死するのは、ままある事だ。お前、ヘタしたら人殺しだったんだぞ?」
「二人は宗教が子供の頃、護衛に任命されて、教育係も兼ねてる。三枝さんには、宗教と同じように、心臓に障碍がある息子さんが居たんだけど……その子は、護衛の辞令が出る直前に亡くなったんだそうだ。私達と同い年だったんだけどな……」
ツネ兄ちゃんが、しんみりした声で説明した。
「いや、計算合わねーだろ。二人とも、どう見ても二十代……」
「二人はゆっくり年を取る人種だから、見た目よりもずっと高齢なんだ」
魔法と科学を折衷する「両輪の国」も含めて、魔法文明圏の人口の約三割は、何百年も生きる長命人種だ。
「それで三枝さんは、宗教を我が子同然に思ってくれてる。……大体、ゆうちゃんが暴言吐いて傷つけた癖に、何、笑ってるんだよ!」
ついに怒ったツネ兄ちゃんに説明を任せ、マー君は食器を回収する。
藍ちゃんが下座の土鍋を持って座敷を出た。
「いや、そんなのお前らが、先にオレに暴言吐いたからだろうが。何が『傷ついた』だよ。ニートは何言われても、サンドバッグでいろってのか!? そもそもオレを怒らせて、あんな事言わせたお前らが悪いんじゃねーか!」
何で、何もかも他人のせいなんだよ。呆れて声も出ない。
ゴミニートは「論破した」とでも思ってるのか、ドヤ顔でみんなの顔を見回す。