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汚屋敷の兄妹  作者: 髙津 央
第五章 汚屋敷の兄妹
110/130

110.反論-兄

 三人が出て行った(ふすま)を閉めて、双羽(ふたば)さんが振り返った。

 「仮にもご親戚と言う事で、殿下からは『多少の無礼は、大目に見るように』とのご命令を受けておりました」

 「隊長さんは『山端優一(やまばたゆういち)は、不敬罪に値する暴言を吐いたので、それなりの対処をする許可を下さい』って。で、ノリ兄ちゃんが『少しだけなら許可します』って答えてた」

 ゆうちゃんには、どうせわからないだろうから訳してやった。

 双羽さんを怖がってるみたいだから、敢えて「隊長」と言う。

 真穂は、下座の土鍋にうどんを入れて、一人で食べていた。残すと勿体ないから。


 「まず、貴方の勝手な憶測を訂正致します。

 殿下が帝国大学にお勤めの件ですが、この国の政府からの招聘(しょうへい)に応じられた為です。

 近年、両輪(りょうりん)の国と科学の国の交流が盛んになり、科学の国でも魔術研究の必要性が高まってきた事と、この国に(ゆかり)が深いお方である事の二点が、殿下が招聘(しょうへい)された理由です。

 この国の民は、魔力を持たない人が大部分を占める為、実際に術を行使する機会は非常に稀ですが、基礎研究が完全に無駄になる訳ではありません。

 学生さんも、卒業前には(おおむ)ね、お勤め先がお決まりです」

 双羽さんはそこで言葉を切った。


 ゴミニートは、蛇に睨まれた蛙のように萎縮した。

 「国費の使途の件は、この国の財務を管掌(かんしょう)する官吏(かんり)に直接、ご意見をお伝え下さい。

 内政干渉になりますので、殿下は何もおっしゃっていません。

 また、殿下は帝国大学の准教授として、お仕事の報酬を受領なさっています。報酬からは、この国に対してきちんと納税なさっています。

 学術誌などの原稿料や、出版物の印税に関しても同様です。

 殿下はこの国の『税金泥棒』などではなく、れっきとした『納税者』でいらっしゃいます。

 この国にお住まいで、税をお納めの殿下が、この国の行政制度を利用する権利を、何の権限もない貴方から、不当に妨げられる謂れはありません。そうですね?」

 双羽さんに同意を求められて、ゴミニートは、何度も頷いた。


 藍ちゃんが、バットに残った肉と椎茸を全て上座の土鍋に入れ、卓上コンロの火力を上げた。


 「ムルティフローラは実力主義の国です。血縁だけでは王族と認められません。

 公務を果たし得る強い魔力をお持ちで、善良なお人柄でなければ、王位継承権が付与されません。

 殿下は毎年、長期休暇中に帰国なさって、公務を執り行っていらっしゃいます」

 双羽さんの口調は淡々としている。

 理路整然とした説明なのに、底に冷たい怒りが籠っていて、怖い。


 「殿下は『三界の眼(さんかいのめ)』と呼ばれる特別なお力をお持ちです。

 三界の眼(さんかいのめ)で『結界の保守管理』と言う重要な公務を(にな)い、それを立派に果たしていらっしゃいます。

 そして、お優しいお人柄は、多くの民から慕われております。

 治癒の術は、強力な魔力を制御する訓練の一環による、副次的な物に過ぎません」


 話について行けなくなったゴミニートが、しどろもどろで質問しようとする。


 「宗教(むねのり)は、王族でも滅多にいない特殊能力の持ち主で、その力を使って特別な仕事してんの。

 癒しの術は、魔法の練習用に簡単なのを習っただけで、それがメインの仕事ってワケじゃない。

 ちゃんと役に立ってるし、誰彼構わず暴言吐いたりしないし、大人しくて優しいから、国民の人気者なんだ。

 ムルティフローラで『要らん子』って言うか『居ない子』扱いなのは、魔力のない俺や経済(つねずみ)の方なんだよ」

 マー君がわかりやすく噛み砕いて説明した。

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【関連  「汚屋敷の跡取り
ゆうちゃん視点の話で「汚屋敷の兄妹」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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