108.証拠-兄
親子丼を食べ終わった三枝さんが、丼を置いて叔母さんに向き直り、深々と頭を下げた。叔母さんは三つ指をついて返礼し、空になった丼を持って座敷を出て行った。
居たたまれなくなったんだろう。
「さっきから否定してばかりで、どうして人の言う事を素直に聞けないんだ」
「いや……だって、証拠が……」
「特許の事なら、特許庁で手続きすれば、登録情報を見せてもらえるよ」
「会社の事なら、法務局で手続きしたら、登記簿を開示してもらえるよ」
ツネ兄ちゃんが淡々と説明し、マー君が真似して言った。
「ごっ……ごちそうさま。アッ君も食い終わったよな!? 宿題教えてやっから来いよ」
「う……うん。ごちそうさまでした」
中坊二人が、空の食器を持って立ち上がった。気まずくなったらしい。
団欒ブチ壊し。
「この国で魔法使いって珍しいし、帝大サイトの学部紹介とかに載ってるんじゃない?」
藍ちゃんが冷やかに言った。
下座の土鍋はほぼ空になっていた。
「いや、そんなサイトなんて、その気になれば、いくらでも改竄できるし……」
「ゆうちゃん騙す為だけにそんな犯罪までしてどうすんだ。ハイリスクノーリターンじゃないか」
マー君がご飯を頬張りながら、呆れて言った。
双羽隊長が、空になった食器を重ねる。
「うるせえ! そんなに言うなら証拠見せろよ! 証拠!」
ノリ兄ちゃんが、ポケットから身分証を出して、おずおずと開いてみせた。
帝大の職員証、帝大の健康保険証、障碍者手帳、外国人登録証。
「いや、こんなの偽造しようと思えば、子供でも簡単に作れるし! て言うか、これ本物だったらお前、外人じゃねーか!」
「宗教は、十八歳の時にムルティフローラ籍を選択したんだ。今は『教授』の在留資格で働いてるんだよ。それに、病気や障碍で働けない人は『ニート』じゃないよ」
ツネ兄ちゃんが、わかりやすく説明する。
ゴミニートは鼻で笑った。
「は? いや、三つ子なのに、ムネノリ君だけ?」
「ムルティフローラは魔法の国だから、魔力がない人は国籍を取得できないんだ。巴の親族は王家と血縁があっても、宗教以外、誰も魔力を持ってないよ」
面倒臭い込み入った事情を、ゆうちゃんの為だけに説明し直す。
ツネ兄ちゃんが気の毒だ。マー君は、ツネ兄ちゃんに説明を任せて、土鍋の中から鳥のささみをかき集めている。