107.説明-兄
「ゆうちゃん、そんな無神経な事言って、真穂ちゃんの神経逆撫でするんなら、俺達も今から、ゆうちゃんに気を遣うの、やめるからな」
マー君が取り皿を山盛りにしながら、ゆうちゃんの方を見もせずに言った。
「まず俺から。商都大学の経営学部在学中、経済の発明品で特許取って起業。卒業後もぼちぼち会社経営を続けてる。はい次、経済な」
「都立高専を卒業して、三回生から古都大学に編入して、院で機械理工学を専攻して、卒業後は政治の会社で技術部長してるよ」
マー君に促されて、ツネ兄ちゃんも簡潔に略歴を語った。
二人とも大卒。しかもツネ兄ちゃんは「東の帝大、西の古都」って言われるこの国で一番難しい大学の院卒。
「いや、いやいや、どうせ学生ベンチャーなんか、どれも中小ブラックで、万年赤字じゃないか。大学も特許も、オレを凹ます為に話盛ってるだけじゃん」
「確かに、俺と経済入れても七人の小さな会社だ。ちゃんとした技術者は経済だけだし、今の所、生産も人手も不足分は外注で賄ってる。
会社を大きくし過ぎても動き難いから、人増やしたり規模を大きくする気はない。ここ数年の年商は毎年、百十六億くらい。そんなに儲かってはないけど、とんとんで、赤字もないぞ」
ゴミニートは、羨ましくて妬ましくて、認めたくないらしい。
何か喋る度に、口から雑妖がボロボロ零れる。
汚らしい。
マー君は、普通に会社の説明をした。
学生ベンチャーを十年以上維持できるって、それだけでも相当凄い。
マー君に促されて、ノリ兄ちゃんも口を開きかけた。
ゴミニートがそれを遮る。
「いや、言わなくてもわかる。障碍年金でニートだろ」
「宗教はちゃんと働いてる。ほら、宗教、教えてやれ」
マー君が口を挟んだ。
障碍年金の受給者は、働けなくても正当な理由があるから、ニートじゃない。
ノリ兄ちゃんが、遠慮がちに説明しようとする。
ゴミニートは、また遮った。
「いや、働いてるったって、どうせ金払って働かせて貰う作業所とかなんだろ?」
「ゆうちゃん、聞きたくないのはわかるけど、遮らずにちゃんと聞けよ」
今度は、俺も我慢できずにゴミニートを黙らせた。
「あのね、僕、母校で先生してるの」
「宗教、そんな省略せずに、経済みたいに言うんだ」
ノリ兄ちゃんの控えめな説明に、マー君がダメ出しした。
「えっ? う……うん。僕、帝国大学の魔道学部に入学して、院で術理解析学を専攻して、卒業してからも、ずっと大学に居るの。えっと……今それで、准教授してます」
ゆうちゃんが全力で否定する。
「いや、いやいやいやいや、そんな見え見えの大嘘……」
「優一! いい加減にしないか!」
半笑いで否定するゆうちゃんに皆まで言わせず、米治叔父さんが眉間に皺を寄せて一喝した。
※三回生……「105.集合-妹」のあとがき参照。経済も配慮するのをやめました。
高等専門学校は五年制なので、卒業後、大学に進学すると、三回生(=三年生)からの編入になります。