104.水炊-妹
今夜は水炊き。
ノリ兄ちゃんも食べられるように、お肉は脂の少ない鶏のササミ。それと、ちくわ。
鍋物はみんな同じのを食べるから、リスク分散の為に護衛の二人は別メニュー。双羽さんは焼き魚とご飯と漬物、三枝さんは親子丼。
にゃんこの形になったクロエさんが、バットに盛られたちくわをじーっと見てる。
「クロ、ちくわ欲しいの? 叔母さん、クロに少しあげていいですか?」
「いいよいいよ。まだあるから、別のを出してあげようね」
ノリ兄ちゃんが聞くと、叔母さんは台所に引っ込んだ。
お皿に一口サイズに切ったちくわを盛って、畳の上に置いた。
「ありがとうございます。クロ、みんなが、いただきますしてから食べようね」
「いいえ、どういたしまして」
ノリ兄ちゃんが、にゃんこのクロエさんの代わりにお礼を言った。おあずけ状態の黒猫は、ちくわをじーっと見てる。
そんなに好きなんだ。
真知子叔母さんは、くすぐったそうに笑った。
上座、床の間を背にしたお誕生日席に、米治叔父さん。
廊下側の席に上座からノリ兄ちゃん、ツネ兄ちゃん、政晶君。ノリ兄ちゃんの膝の上ににゃんこのクロエさん。
政晶君の向かいにお兄ちゃん。お兄ちゃんの隣は空の座布団が二枚。
下座卓にはコーちゃん、私、末席に真知子叔母さん。叔母さんの向かいに藍ちゃんが座った。
上座卓七人に大きな土鍋、下座卓四人にちょっと小さめの土鍋が湯気を立てている。
ノリ兄ちゃんの後ろの小さい卓袱台に、双羽さんと三枝さんが座った。
言われた通り、二人を待たずに食べ始めた。
おいしい。真知子叔母さん、料理上手だなぁ。
私達は、塩と酢で食中毒にならないようにするだけで、味を良くする余裕なんてなかった。
お母さんと二人になれたら、ちゃんとした味のを作れるようになるかな?
お祖母ちゃんは、食中毒にならない作り方を教えてくれた。
学校の調理実習で習うのとは、全然違う。
塩分が多くて、体に悪い作り方。食中毒は防げても、後で確実に病気になる。
実際、お祖母ちゃんは入院してから、腎臓が悪くなってるのがわかった。
健康診断に行かないから、気付かなかっただけ。
真知子叔母さんの料理は、どれも薄味で優しいおいしさ。
新鮮な材料で作ってて、栄養のバランスも塩加減もいい。
家族のことを考えた愛情いっぱいのご飯。
藍ちゃんとコーちゃんが羨ましい。
わたしも毎日、こんなご飯を食べたかった。
ノリ兄ちゃんの膝の上で、黒猫のクロエさんが、一生懸命ちくわを食べてる。
かわいい。お掃除いっぱい頑張ってくれたもんね。
お金が余ったら、ちくわ買ってあげようかなぁ?
お礼のお金は受け取ってくれなかったけど、クロエさん用のちくわなら、受け取ってもらえるかな?
クロエさんの栄養はノリ兄ちゃんの魔力だって言ってたけど、今、ちくわ食べてるし、本物の猫じゃないから、人間用のちくわで大丈夫だよね?
お礼の品がアクセサリーとか残るものだと、後でガラクタになって迷惑かけちゃうかも知れないけど、消え物だったら、いいよね?
まぁ、悪魔みたいなものとは言え、他人が勝手に食べ物を与えるのは躾によくないし、後で聞いてみよう。