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汚屋敷の兄妹  作者: 髙津 央
第五章 汚屋敷の兄妹
101/130

101.負傷-妹

 ここから真穂視点開始。

 マー君が「コンビニ行って来る」って怖い顔して車で出て行った。


 何だろ?


 クロエさんが、ノリ兄ちゃんと三枝(さえぐさ)さんに湖北(こほく)語で何か言ってる。ノリ兄ちゃんが答えると、クロエさんは三枝さんと一緒に家に入った。

 暫くして、ゆうちゃんが箪笥(たんす)を抱えて出て来た。三枝さんに軽くする魔法を掛けてもらう話だったみたい。

 ゆうちゃんは、ゴミ山の手前で手を滑らせた。足の上に箪笥の角が落ちる。


 あぁあ……


 「ゆうちゃん、大丈夫?」

 ノリ兄ちゃんが安全地帯から出て、ゆうちゃんを心配する。倒れたゆうちゃんは、何も言わない。三枝さんとクロエさんも駆け寄る。

 「優一さん、玄関まででよかったんですけど……」

 クロエさんの言葉で、魔法が解けて重くなって落としたのがわかった。


 先に言われてたっぽいのに、何で注意を守らないかな?自業自得じゃん。


 三枝さんが傷の具合を調べて、ノリ兄ちゃんに報告する。靴下が血だらけ。

 「ゆうちゃん、爪は割れてるけど、骨は大丈夫だって。よかったね」


 入院レベルの大怪我じゃなくてよかった。


 ゆうちゃんはノリ兄ちゃんを睨みつけてる。

 「これだったら僕でも治せるから、ちょっと待ってね」

 ノリ兄ちゃんが杖を地面に置く。クロエさんに支えられて立って、呪文を唱え始めた。


 私が魔法に興味を持ったから、ノリ兄ちゃんは色々教えてくれた。

 魔法の呪文は、湖北語じゃなくて「力ある言葉」。

 どっちも何言ってるかわかんない。でも、「力ある言葉」はとってもキレイな響きだ。

 わかんないけど、何か好き。


 ノリ兄ちゃんの可愛い声が、歌みたいな感じで「力ある言葉」を紡ぎ出す。

 あたたかい何かが体を包む。

 全身にやさしい何かが行き渡る。

 霊感がある人には、これが何かわかるのかな?

 筋肉痛でギシギシ言ってる体から、痛みの(もと)が消えてゆく。こないだと同じ。体が軽く楽になる。


 ノリ兄ちゃんは唱え終わると杖を拾って、ゆうちゃんに大丈夫か聞いた。

 三枝さんが、倒れた箪笥をゴミ山に追加する。

 ゆうちゃんが靴下を脱ぐ。爪は全部ちゃんとしてる。靴下が血だらけじゃなかったら、怪我したのが嘘みたい。

 「よかったね。ちゃんと治ってて」

 「いや、あ……ああ。うん」

 「何でそこで『ありがとう』の一言が言えないのかなー」

 それまで黙っていた藍ちゃんが、通り過ぎ様に言った。箪笥の前にゴミ袋を置いて、ゆうちゃんに向き直る。


 「部屋掃除しなくてタンスに虫涌かして、捨てるのに自分じゃ運べないから、三枝さんに魔法で手伝ってもらったんだよね? クロエさんに玄関まででいいって言われてたのに、調子に乗って運ぼうとして怪我したのは、自業自得だよね? その怪我もノリ兄ちゃんに魔法で治してもらったのに、何で誰にも『ありがとう』とか『ごめんなさい』とかが言えないの? 何もかも誰かにやってもらって、当たり前だとでも思ってんの?」

 藍ちゃんはそこまで一気に言って、言葉を切った。

 誰も何も言わない。

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【関連  「汚屋敷の跡取り
ゆうちゃん視点の話で「汚屋敷の兄妹」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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