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汚屋敷の兄妹  作者: 髙津 央
第一章 真穂の十二月
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010.仕込

 お祖父ちゃんは毎週水曜日、区長さんちでやってる法話会(ほうわかい)に通ってる。

 住職さんの有難いお話を聞いた後、お茶を飲みながら世間話をする会だ。特に信心深い訳じゃないけど、近所付き合いで行ってる。


 火曜の夜、卒業旅行に行きたいって言ったら、やっぱり一喝された。

 「寝言は寝て言えッ! 女だてらに旅行なんぞッ!」

 自分達は組合さんの旅行に行きまくりの癖に、私はダメと言う謎理論。旅先で何してんだか、わかったもんじゃない。


 でも、これで仕込みは完了。

 私は大人しく引き下がった。


 次の日、法話会でお茶しながら、まんまとみんなに愚痴をこぼしてくれたらしい。後で住職さんがケータイに掛けて来て教えてくれた。

 住職さんと区長さんで、巧い事言って、私を旅行に行かせるって、みんなの前で約束させてくれたらしい。

 「まぁ、そう言う事だから、みんな承知しとる。堂々とやったらえぇが。一人で無理せんようにな。いつでも頼ったらえぇ」

 胸が詰まって、暫く声が出なかった。

 やっとの思いで何とか絞り出した声は、ちょっと震えてしまった。


 話が決まったので、真知子叔母さんにメールして、旅行用のスーツケースを借りた。

 堂々と分家に行って、受け取りがてら、作戦の説明をする。

 米治叔父さんと真知子叔母さんも、喜んでくれた。

 「ゴミ捨ては、俺が軽トラ出すげ、庭に積んどいてくれ」

 「えっ、でも、そんな事まで……」

 「なぁに、俺にとっても実家だげ、真穂ちゃんは気にすんな。ホントなら、俺らがみなやらにゃならんげな」

 「大掃除する間、ウチにご飯食べにおいで」

 その件については、素直に甘える事にした。

 あんな所、一秒だって長居したくないし、あんな所では、なるべく食事をしたくない。

 「俺も何か手伝うよ。力仕事とか。どうせ冬休みだし」

 「コーちゃんはいいよ。受験生なんだし、怪我しちゃ大変だから」

 従弟(いとこ)の高校受験の足を引っ張る訳にはいかない。

 「紅治(こうじ)、大掃除を言い訳に勉強サボる気だろうが。いかんぞ」

 「バレたか」

 従弟(いとこ)のコーちゃんこと紅治(こうじ)君が苦笑する。つられてみんなで笑った。

 「お前は姉ちゃんみたいに賢くないげ、うんと勉強せにゃならんが」

 コーちゃんは、米治叔父さんに言われて神妙な顔で頷いた。


 従姉(いとこ)(あい)ちゃんは、国立琉王大学(こくりつりゅうおうだいがく)の医学部一年生。

 医学部進学は、歌道山町風鳴地区(うどうやまちょうかぜなきちく)初の快挙だ。区長さんちで、盛大に合格祝いをしてもらっていた。

 「姉ちゃん、二十五日に帰って来るっつってたげ、勉強見てもらえ」

 「うん」

 模試の成績を思い出したのか、コーちゃんは真剣に頷いた。

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【関連  「汚屋敷の跡取り
ゆうちゃん視点の話で「汚屋敷の兄妹」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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